ホシベニシタヒトリ(2)。

 というわけで前回の続き。要するに図鑑を読み比べて,まなざしの変遷をたどろうというものである。


 【北】=北隆館,原色昆虫大図鑑,昭和40年初版,7刷
 【保】=保育社,原色日本蛾類図鑑,昭和32年初版,昭和46年改訂新版,新版9刷
 【大】=講談社,日本産蛾類大図鑑(第1巻),昭和57年初版,第4刷使用
 【標】=学研,日本産蛾類標準図鑑,平成23年,初版
 (…)は略,〔 〕は引用者補注。また下線強調,イタリックおよび改行はすべて引用者による。
 ホシベニシタヒトリ・ベニシタヒトリは以下,「ホシベニ」「ベニ」と略記する。


 【北】(I,p.103)

〔ホシベニ〕
♂の触角は褐色で短い両櫛歯状。後翅中室端の黒紋は細く,<字型であることが特徴である。
♀は前翅に不規則な汚褐色斑があらわれる。
前翅長:♂,23〜24mm;♀:25mm。
本州では山地に産し,7・8月に出現する。(…)

〔ベニ〕
♂の触角は黒褐色で歯牙状。前翅の黒色雲状斑のないものがあって,この場合前種〔ホシベニ〕と誤りやすいが,触角は歯牙状で櫛歯状でないこと,後翅中室端の斑紋は太いことで区別できる。
♀の触角はわずかに歯牙状,前翅は汚褐色。
前翅長:♂,22〜24mm;♀,27mm。(…)


 【保】(下,p.210)

〔ホシベニ〕
開張46〜51mm。
♂の触角は櫛歯状,♀は繊毛状
上記3種〔ゴマベニシタヒトリ・ベニシタヒトリ・コベニシタヒトリ〕に似ているが後翅の横脈のうえの黒紋がほそ長く,かつ明瞭にかぎ形に屈曲していることによって明らかにみわけられる。♀は♂とすこしちがっており,前翅に特異な褐色斑が現れているから,ただちにみわけることができる。
成虫は6〜9月頃に出現するがあまり多くない。(…)

〔ベニ〕
開張40〜48mm。
♂の触角は鋸歯状で繊毛を生じている。(…)
♀は触角繊毛状,前翅表面の地色ははるかに黄土色をおびている。中央部には♂と同様に黒色の雲状紋がある。後翅の黒紋は♂よりも大きい。
成虫は6〜9月頃に出現する。(…)

 ホシベニのイタリック部分,標本写真を見ると♀の後翅紋は太く,また鉤型にならないものがある(例えば【標】,II,p.36の標本)。この文脈では♂のみとは読み取れず,表現が不適切だと思う。


 【大】(I,pp.654〜655)

〔ホシベニ〕
♂の前翅は黄色,前縁と後縁および亜外縁部にわずかの黒点があるだけだが,個体によってこの一部が消える。時には内横線にあたる 2−3 の黒点から赤褐色の淡い線が出て,中室後縁で角ばったのち,翅底部の黒紋に達する。
♀の前翅は橙黄色,濃褐色斑が中室端から下方に広がり,中央を走る帯状の横線はこの斑紋に合流する。横脈上端に黒点がある。(…)
東北地方まで平地でもとれるが,関西以西では山地性で,7−8 月に出現する。

〔ベニ〕
♂の触角は歯牙状,長い剛毛が生えている。♂の前翅は中室下から翅底部にかけてかなり黒鱗を散布し,内横線の出発点に当たる黒点は前種〔ホシベニ〕より大きく,ここから出る暗色帯は中室下で不明瞭となる。
♀の前翅は前種の♀とちがい,いちように暗い黄褐色。(…)
関東地方の平野部では6月と8月下旬から9月上旬の2回出現する。


 【標】(II,p.163)

〔ホシベニ〕
開張:48〜55mm。
♂♀で色彩,斑紋が異なる。
♂の前翅は黄色。後翅の中室端の黒紋はL字型。
♀の前翅は橙黄色で特異な褐色斑がある。この褐色斑でベニシタヒトリと区別できる。
(…)[生態]年1化,7月に出現する。(…)

〔ベニ〕
開張:38〜53mm。
♂は♀より明るい色彩である。後翅の中室端の黒紋は太く,L字型でないことでホシベニシタヒトリと区別できる。
♀の前翅は一様に暗い黄褐色。
2化目の個体は小型になる。
(…)[生態]年2化,6〜7月および8〜9月に出現。平地,山地に普通。(…)


 整理。

  1. 翅の模様については【大】が詳しく,他の図鑑との衝突はない。
  2. こちらが問題。触角について,
    • ホシベニ
      • ♂「褐色で短い両櫛歯【北】」・「櫛歯状【保】」
      • ♀「繊毛【保】」
    • ベニ
      • ♂「黒褐色で歯牙状【北】」・「鋸歯で繊毛あり【保】」・「歯牙状で長剛毛【大】」
      • ♀「わずかに歯牙【北】」・「繊毛状【保】」

 歯牙と鋸歯とは同じだとしても,繊毛と歯牙ではかなり違うと思うのだが。
 長くなったので今日はここまで。次回は手持ち画像でどこまで分かるかの確認。