No.20:イネホソミドリカスミカメ


05年9月18日,苫小牧市樽前,錦大沼公園
 小さいが,赤い触角がよく目立つ.全体の色は薄い緑色.見るからに取るに足りない「虫けら」である.


 まず学名の話から.あのファーブル先生も,新しい虫を取り上げるときの枕として,学名の悪口を一くさりぶつのが恒例である.わたしの羅語力は大先生の足元にも及ばないが,虫系サイトで他にこんな事をやってる人を知らないので.
 "Trigonotylus caelestialium".属名が「3つの+生殖の+瘤」.そうなのかもしれない.図鑑には交尾器の図が出ているが,わたしが見ても分からない.小種名は(自信がないが)「天の+ニンニク」である.この虫はイネ科植物専門である.わたしの解釈が間違っているのかもしれない.分かった時点で訂正の予定.
 誤りを糾弾していただければありがたいのだが,この日記の知名度が低いので今のところ放置されている.


 さて,この虫は名前がやっかい.「イネホソミドリカスミカメ」の前は「アカヒゲホソミドリカスミカメ」とよばれていたらしい.もちろんもっと前には「メクラガメ」だったろうから,売れない芸能人のように改名してきた訳だ.しかし,こいつの場合は逆で,「売れてきたので名前を変えた」とのこと.『カメムシ図鑑第2巻』から.

最近,本種がイネの重要害虫として,誌上や口頭発表でひんぱんに登場するようになったことに伴い,たいへん多くの方々から「和名が長すぎるので面倒」,「できることなら短く変えてほしい」という要請を受けた.そこで,表記の「イネホソミドリカスミカメ」を提案したい.他の近縁種との兼ねあいがあるため,極端に短くすることはできなかったが,イネの害虫としての特性を表現しつつ,少しでも短くなる名称を考えた次第である.

 「図鑑は読み物」と思っているので,こういう記述は面白い.「面倒」とか「できることなら」といった表現はいかにも現場の声.かくして14字から12字へ,2文字の節約となった(銀行振り込みで升の中に書くなら,16字→13字).「アカヒゲ」というのも代表種として直観的な良い名称で捨てがたいと思うが,「イネ」のセンスも悪くない.


 長くなったのでここらで画像をもう1枚.

05年9月6日,撮影場所は同じ.このカメムシは9月2・6・18日の3回見ている.


 北隆館『大図鑑』は昭和40年初版なので,もちろん「アカヒゲホソミドリメクラカガメ」である.これは「ガメ」の濁点分更に1字多い.

黄緑色で触角第1節の両側と残りの3節朱赤色,脚の先端部も赤みを帯びる.頭頂に縦溝があり前胸背に微少点刻を散布するが小楯板は平滑である.平地山地のイネ科雑草植物間に多い.(p.98)(強調引用者)

 まだ害虫として認識されていない模様.ところが全農教『カメムシ図鑑第2巻』(2001年)ではこうなる.

本種はイネ科植物を加害し,斑点米を産出する重要種としてよく知られており,生態や防除に関する研究もさかんに行われている.(P.274)

 クサギなどの果樹カメムシの害虫化も杉植林の進展とセットで考えなければならないそうだし,このカメムシがイネ害虫としてクローズアップされるようになったのも,稲作における状況の変化があるのかも知れない.
 害虫としての説明や生態に関しては,農薬メーカーであるシンジェンタジャパン(株)のサイト内の「病気と害虫の話 第21話 斑点米をおこすカメムシ類−アカヒゲホソミドリカスミカメ−」に詳しい.


 さて,「カメムシ」も20種まできた.手元の残りはあと2種.桜が咲く前に終わらせないとなー.