マエキトビエダシャク.虫の和名表記について.
気力減退状態が続く.昼はへたれていて,夜には虫撮りに行こうかと思っていたら,夕方飲んでしまった.虫はサボり.
昨日,8月14日に紹介し漏れた蛾がいたのでそっち.
この日の駐車場には,隅っこにテントを張っている親子連れがいて,そこからラジオの音とかが聞こえてくる.どうしてこんな場所で,と不審であるが,彼らにしてみればわたしの方が不審であろう.
上から下まで着込んで肌を出さず,スキー帽着用.北海道の夏とはいえ,季節感のないことはなはだしい.大きめのカメラを持ち,しかも這いつくばって地面に向けてフラッシュを光らせたりしている.我ながらぁゃιぃ.
神経の細い子供ならトラウマになるかも知れないが,わたしは悪くない.
というわけで,蛾.
貼り付きもの.前翅長12mm.
マエキトビエダシャク.類似種にオオマエキエダシャクがいるが,黄色部分が少し違うので.
憶えてしまえば分かりやすい蛾だと思う.
上の蛾は漢字で書けば「前黄鳶枝尺」だろう.
ところで何かというと,虫の名前をどう表記するかという話.
カタカナで書くのが慣例になっているようで,当日記もそうしている.いろいろ事情があって,
要するに<虫の名前での検索にヒットしやすいように>,という判断である.
ただ,長い名前の虫になると何だか呪文のようになってしまって,生き物の名前とは思えなくなる.
たとえば,
- 作者: 田川研
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では,「ひらかな表記」をとりあげている.なるほどそちらの方が血が通っている印象があるし,単独ならカタカナよりも見やすい.
保育社の図鑑の見出しや,北隆館の大図鑑の索引部分はひらがなである.これは見やすい.眼のちらつきが緩和される.
ただ,『虫屋の見る夢』でも述べられているように,文章中だと判読不能になる欠点がある.これは致命的である.
そんなことを気にしていて,最近買った本.
- 作者: 三木卓
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ここでの工夫は面白い.漢字が併記されている.例えば「ウスバシロチョウ[薄翅白蝶]」といった具合である.
名前がどういう意味を持っていることを示すのは大切なことだと思う(どうして学名はあんなに意味不明なのだろう).生物学者にはどうでもいいことかもしれないが,愛好家にとっては名前も虫の構成要素の1つだ.そこらが漢字なら何となく分かる.
ハムシなんて「葉虫」だから.「羽虫」だと勘違いしている人が絶対いる.
やるものですねえ.本の作り手側の意欲を感じるねえ.
せっかくだからもう少しつついてみる.
この本でもそうなのだが,漢字表記には問題もあって,漢字名前はあまり使われていないからだろうが,一般的な読みにあわなかったり,漢文調であったりする.
例えば,「薄翅白蝶」だって,個人的には「薄羽白蝶」の方が好ましく思う.だって,羽が薄い白蝶なんでしょ.「翅」は,普通は「ば」って読めない.意味をねじ曲げない限り,読みやすく音が一致している方がいいはずだ.
「条(條)黒白蝶」も「筋黒白蝶」で充分.できるだけ普通の読みに合わせたい.
ただ,命名において「蝶」「蛾」「虫」など略されているものは,発音しなくとも,これを付けておく必要のあるものが出てくる.
「黄揚羽(蝶)」や「前黄鳶枝尺(蛾)」なら取ってしまってよさそうだ.ところが「紅雀蛾」や「茶色霞亀虫」は省略できない.別の生き物になってしまう.
そういう誤解の生じる恐れがなければ,省略できるものはしたほうがいい.「大水青」は「大水青蛾」である必要はない.
カミキリは「髪切」か「噛切」である.ところがしばしば「天牛」という表記をしばしば見かける.これは大きい漢和辞典に出てくる.茶色だか黒だかの虫である.
面白がって「天牛」を使う分にはいいのだが,和名としては無意味.
とはいえ,カマキリの「蟷螂」はもう定着していそう.これはこのままでもよさそうである.むずかしいねえ.
「ダマシ」や「モドキ」の付く昆虫がいる.これは語順が漢文になる.
- 作者: 日外アソシエーツ
- 出版社/メーカー: 日外アソシエーツ
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を見ると,テントウムシダマシは「偽天道虫」で,カマキリモドキは「擬蟷螂」である.「偽」と「擬」はこう使い分けるんですねえ.読みは譲るとしても,日本人にとってはせめて「天道虫偽」なのでは.何か座りが悪いが,もともとの和名が変なのである.
まとめ.
1.漢字表記は捨てがたい.
2.できるだけ和名の持つ意図に沿って,音の一致する表記がのぞましい.ただし完全に一致させられないケースは多々ある.中国語や漢文の影響は,定着しているもの以外は排する.
なんだかなあ.