マニアへの誘い〜『探そう!ほっかいどうの虫』.

 詩誌の例会で札幌へ.
 帰路,書店に寄った.気になっている本があった.

探そう!ほっかいどうの虫

探そう!ほっかいどうの虫

 ごらんの通り,大判の本でクワガタの表紙である.やや期待はずれ.子供向けのカブクワ本?
 手に取ってみる.いきなり開いたページが「ダイコクコガネ」.
 工エエェェ(´д`)ェェエエ工.確かにダイコクコガネはクワガタなんかに勝るとも劣らない魅力的なフォルムの虫だが,小さすぎ.まして「糞虫」である.糞虫を探す子供ってディープ過ぎるような気がする.
 カブクワと違って糞虫は,子供同士のコミュニケーションツールにはきっとならない.見事なダイコクコガネの♂をゲットした彼はきっと学校でエンガチョされ,「変わり者の虫オタ」の烙印(聖痕?)を押されるに違いない.もう彼の未来は「虫屋」しかない.
 などと考えながら,更にパラパラと数ページを繰って,パタンと本を閉じた.レジに向かうためにである.これは,とんでもない本だ.


 ページ見開きで,1種類あるいは1グループを取り上げる構成で,左が大きめの昆虫写真,右が採集法などの解説になっている.


 当然,ミヤマクワガタノコギリクワガタなどは1種で見開き.それはいい.この本はなんと,「マダラクワガタ」「マグソクワガタ」といったマイナークワガタまで見開きにしている! 要するに前者のメジャー組と後者の知られざるクワガタとが等価に扱われている.これは大人の虫マニアによる認知のゆがみである.よく企画が通ったものだ.もちろん大人の虫好きであるわたしは大歓迎である.
 しかし,初めて知る,格好良くも何ともない,友達には自慢もできそうもないクワガタに目を輝かす子は絶対に少数いると思う.
 深みにはまった彼には未来の虫マニアの道が待っている.この本の作り手はそれを狙っているに違いないのだ.「わたしの人生を変えた一冊」.


 読めば読むほど虫マニアの世界なのである.


 オサムシが6ページ.もちろんオサムシは熱狂的マニア(大人)のいる昆虫である.
 マニア用語もどんどん出てくる.「ネキ」(上翅が短くハチに見える小型カミキリムシ.コレクター多し)・「カトカラ」(下翅の鮮やかな中〜大型ヤガの属種名.蛾ファン垂涎)・「ゼフィルス」4ページ(ミドリシジミの類.これ専門のマニアがしばしばいる)など.
 さらに,流行のFITトラップ(アクリル板などを立て,夜に飛ぶ甲虫類がそこに衝突して受け皿に落ちる)や,はた目は意味不明なタマムシトラップ(やたら柄の長い緑の捕虫網を鯉のぼりよろしく突っ立てる)の説明まである.


 名著『札幌の昆虫』は,アメンボ類の交尾器の比較写真で1ページ費やしていたり,ハナアブの同定用の対比表があったりするステキな本なのだが,どうやらこの『ほっかいどうの虫』にも同じ匂いがする.
 虫好きの自分ならどういう図鑑・手引き書が欲しいか,から発想していくと,こういう本ができあがるらしい.
 こだわりが分かる人にはステキに面白いのだが,素朴な一般人は読み飛ばすに違いない.


 当然,この本とシンクロしそうな子供はほとんどいないだろう.でも何人かは絶対出てくる.我が子をハードな虫マニアにしたい親は,この本をすべからく買い与えるべし.上手くいけば,業界用語を使いこなし,マニア受けする虫にしか目をくれない糞生意気な小学生に育つはずだ.


 あくまでも子供向けの本の体裁だから,既にある程度マニア化している大人にとっては,虫の種類数・関連知識では不満.
 しかしこれは図鑑ではなく「手引き書」である.採集場所・採集法の記述は具体的で分かりやすく参考になる.少なくとも,北日本の虫好き(大人)は購入して損はないとわたしは思うのである.


 ところでカメムシが取り上げられていない.
 ウワァァァァァァヽ(`Д´)ノァァァァァァン!