Actias属の錯綜について(3)。
(承前)
やっと A.aliena種にたどりつく。“aliena”を種としたのは英のバトラー(Butler)。
「The Annals and magazine of natural history; zoology, botany, and geology 」(1840)内「Descriptins of new Species of Lepidopera from Japan」。例のプライヤーが大英博物館に寄贈した標本の報告文である。[ ]および改行は引用者による。
19.Tropaea aliena,n.sp.[新種](no.323)
[Butlerはこの蛾を,ヒュブナー(Hübner)(1819)にならって Tropaea 属に分類している。]
[形態についての記述は略]
この美しい種はメキシコのT.dictynna[クレタの「網の女神」ディクチュンナから]に酷似するが,前翅前縁から眼状紋につながるチョコレート色の帯がない[「Butterflies and Moths of North America」内「Luna moth」の項参照]こと,横線の波が大きく,前翅内縁に向かう外縁線が見えることが異なっている。
リンネは明らかに,T.dictynna と T.luna とを混同している。
http://www.archive.org/stream/annalsmagazineof541879lond#page/355/mode/1up
なぜなら,『自然の体系』10版[1758-59]において,リンネはその短い記述に Catesby による北アメリカの昆虫の図版と Petiver の図解による描写を引いている[当ブログ09-12-31記事に訳出]。しかしそれに対して,『ウルリーケ王妃の博物館』[1764]の詳述ではクレルク[Clerck,リンネの弟子,画家]の『Icons insectorum rariorum』[1759]を最初に引用しているのだが,この画像では翅にくっきりとした1本の横線が走っており,明らかにメキシコ種を表しているのである。
どちらの記述も,[メキシコ種からではなく]北方のタイプをもとになされたと思われる。
T.dictynna 種は結局,現在は A.luna 種のシノニムとされている。
真面目に分析・分類すればするほど差異化の罠にはまっていくようだ。
とりあえず,「日本産(横浜)の標本」ということで“aliena”は「異国の」と解釈すべきだろうことまでは判明。どうせなら“japanensis”とでもしてくれていれば,もっと改名がなじみやすいものになったのだけどねえ。
(この項続く)