Ecliptopera属更新。後節“-pera”について Emmet 批判。

 HP更新

 学名調べに使っている本の一つ。

The Scientific Names of the British Lepidoptera-: Their History and Meaning

The Scientific Names of the British Lepidoptera-: Their History and Meaning

 イギリスの鱗翅をほぼ網羅して学名解釈を行った本で,平嶋『蝶の学名』から恣意性を取り除いた辞典的なものと思えばいい。イギリスと日本とでの共通の属や種が少なくないので,確認のために必ずひもとくことにしている。
 
 もちろん全面的に信用するのは禁物で,ときどき首をひねらされる。
 今回の「Ecliptopera」にはずいぶん苦しめられた。Ecliptopera について彼はつぎのような(恐るべき)解釈をしているのである。

※改行及び赤字及び[  ]はyyzz2による。
(p.169)
εκλειπω(ekleipô),失敗する,欠乏する。οψ,οπος(ops,opos),眼[face]。ウォーレンは,属の記載において「眼は丸くなく,斜めに扁平で,下端部は小さな点になっている」と書いている。
 マクラウド[Macleod][エメットに先行する『Key to the names of British butterfles and moths』の著者。エメットの目的の一つは マクラウドの誤りを正すことにある]は「Eclipes,不十分な。peras,端。前翅翅頂が角が鈍いことから」とする。
 マクラウドの解釈は「翅頂の角が鈍く,ほとんど鉤型に近い」というウォーレン自身の語と矛盾している。つまり,περας(peras)は時間の終わりあるいは目的を意味するのであって,決して場所的な終わり,すなわち端を意味していない。

 さて困ったのである。エメットの解釈に従うなら,最後の最後の“-ra”が分からない。やっぱり「peras」に思えるのである。
 ウォーレンが「-pera」語尾を採用している属名は12属あって,原記載を片っ端から調べたのだが,「眼」の意味では全然使われていない(ウォーレンは「翅脈」重視派である)。百歩譲っても「Ecliptopera」にしか“ops”は使えそうもないという結論となった。「peras」がダメでも,「pera」には「小さな袋」の意味もあるから,後翅後縁の袋の線も考えたが無理筋である。
 辞書を引き直すと,「peras」に「boundly(境界)」とか「το π. ,tip」とか書いてある。常識的には「場所」である。さらにウォーレンから離れれば,例えば Hampson の「Chrysopera(金色のpera)属」は画像を見れば,これはどうしたって「翅の端っこ」に決まっている。
 というわけで,エメットのギリシア語理解が正しいとしても正しすぎ。命名者はもっといい加減であろう。例えば,Stephens, 1834 では「Anchylopera(鉤のpera)」に

περας terminus

http://www.biodiversitylibrary.org/item/34014#page/115/mode/1up

の註が付いていたりする。これも翅頂が鉤型にえぐれたハマキガである。
 
 エメットが語学的に何を言おうとも,「-pera」は「peras(端っこ)」であるというyyzz2の結論である。