No.14:ヒラタヒョウタンナガカメムシ

 すっかり冬まっただ中で,虫撮りがさっぱりである.生きているのはユスリカばかり.
 樹の皮をはがしたりして寝込みを襲えばいろいろと収穫はあるのだろうが,連中の安寧を破壊してまで,という気持ちがある.何かを調査研究しているプロじゃないから仕方ない.どうせ学問には貢献していないので,分をわきまえてというところ.


 南へ虫撮り旅行する時間的余裕などないので,早く春になることを待ち望むばかり.ネットで「誘蛾灯」について調べたりする.
 家の前で灯火撮影できたら楽しいだろうな.でも8月にはドクガだらけになる可能性大.白布に卵を産み付けられても困る.それに街灯が多いから期待したほどではないかもしれない.
 やっぱり地道にあちこち回るしかないのかなあ.


 それにしても,コンビニの集虫力はすごい.昨シーズンで面白いもの珍しげなものは多くコンビニ産である.ひらけた箇所にあって,圧倒的な光量を誇っているのはとにかく強い.あの光は人間だって引き寄せる.ただし撮影していると,たいてい不審者認定される.
 虎穴に入らずんば何とやら.
 しかし,わたしが何か言われるのはともかく,察知した店員がガラスや壁の虫をこまめに掃除するようになるととても困る.うーん,難しいところ.
 次のシーズンは無人駅を探してみるかな.少し遠いのが難で,気軽にとはならないだろうが.


 このヒラタヒョウタンナガカメムシもコンビニ産.いつもの所よりは街中に近いが,それでも虫は来る.カメラを忘れて,見事なヒトリガを撮り損なったことも.
 
 05年9月1日,苫小牧市明徳町で撮影.
 ガラスのはじっこにくっ付いていた.小さい.1cmには全然とどかない.暗いこともあって眼視では「小さいカメムシ系」で限界.
 画像をレタッチで少し明るくして(ここの画像も加工している)「ナガカメムシ」っぽいとか,前胸背の形状から「ヒョウタン」系だろうことは想像できたが,そこでストップ.
 結局「ふ○ば」のコテの方に種名を教えてもらった.どこが「ヒラタ」なんじゃい.図鑑をあれこれ繰ってみると本家の「ヒョウタンナガカメムシ」がいて,そっちは前胸背がこんもり盛り上がっている模様.他にも色々な「ヒョウタンナガ」がいて少しずつ違っている.ついでに言えば,属名がばらばらである.分類学は顕微鏡と解剖の世界だから,わたしなどにはオテアゲ.将来はDNA分析で属種が大変動するかもしれない.


 学名は"Pachybranchius luridus".属名は「硬化・肥大した+上腕」でなるほどそうである.カメムシにはよくこんな具合に前脚が隆々とした種がいる.どういう適応・機能なのだろう.別段,太ければそれだけ力が強いというわけでもなさそうである.
 昆虫のデザインというのは,池田清彦が大げさにいうように,結局は「そういう風に進化したかったから」としか考えようのないものがよくある.
 属小名は「薄黄色の,色あせた」.どこのことを指しているかよく分からないが仕方ない.


 このカメムシ,ひとつもメジャーでないためか,北隆館の図鑑には記載がない.全農協『カメムシ図鑑』から.

前胸背前葉は黒褐色で,1対の大きい赤褐色紋がある.全体に曲がった金色の長毛を密生する.
草むらで生活し,ときに稲の穂を吸収して斑点米を産出する.

 「赤褐色紋」も「長毛」も確認できず.でも図鑑の図版でもそこらは分からないので,おあいこ.


 今度見つけたら,もっとぎりぎりまで近づいて前胸をアップにしてやろう.人間の女性相手なら非常にまずい事態だが,カメムシなら問題なしである.