非アカデミズム文体の深淵〜 『野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物』(再掲).

 もう一つやっていたブログを思うところあって整理した.少しだけ虫ネタの記事があったのでそこから転載.05年5月15日.
 (リンク切れ等修正)


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 以前『いろいろたまご図鑑』の記述があまりにも図鑑的でそっけなくてつまらないと書いた.そういえば,その本が書店で平積みになっていた.売れてるらしい.確かにいい本ではある.


 今回採りあげる本はその逆の路線を狙っている…?

野外毒本―被害実例から知る日本の危険生物

野外毒本―被害実例から知る日本の危険生物

 内容は,山や海で遭遇するかもしれない危険生物(クマとかサメとか)や毒虫・毛虫の類や毒草の小図鑑.カラーページもしっかりしていて,色々な毛虫の写真は目に楽しいです(嫌いな人は夢に出てくると思うけど).ゾエア幼生まで採りあげられているあたりもたいしたもの.


 というわけで,これもオススメ本.


 ところが,である.この本は読んでいて何だか違和感が.読み進んでようやく分かった.


 文体がおかしい.手触りが三流週刊誌の「犯罪実録」「秘密の性の告白」「心霊体験特集」を読んでいる時のそれに近いのです.


 まず,リード文が妙に扇情的.ツッコミ所満載.

いつの間にか背中が血まみれ,出血はなかなか止まらなかった.

 完全に心霊現象です.ヤマビル.

テントの中に侵入し,就寝中に襲われて絶叫.

 猟奇殺人の臭いがします.トビズムカデ(ようするにムカデ).

女性ばかりを狙うサルが住宅地に出没.

 もちろんニホンザルですが,わざわざこんな書き方をしなくてもいいんじゃないかと思います.危険だということはビシビシと伝わってはきますけど.

木をつかむと,そこに幼虫がいた.

 そりゃあ,いるとは思いますよ.「人間いたるところ幼虫あり」です.マツカレハ.


 ところで「まつかれは」と入力したらいきなり,「待つ彼は」の誤変換.なかなかいい感じです.正しくは「松枯葉」.ただの黒っぽい毛虫です.


 本文も独特の「実話体験文体」.

Sさんの場合,スギではなくマツの花粉に対してアレルギー反応が出るとの診断だった.今でもSさんは,春になると花粉対策用のマスクを手放せないでいる.(スギの項)

 こういう具合に文章の結語部分で,「過去の忌まわしい事件の傷を引きずった現在」を持ってくるのが基本.一気に文章がチープな感じになります.それはそれで面白い.


 例をもう一つ.ウニに刺された話(ガンガゼの項).

鋭い痛みは2〜3日で収まった.刺さっていたトゲは,どうなったものか,いつしか消えていた.

 こんなレトリックも定番ですね.余韻が安易に残ります.続編を書く時の伏線にもなって便利です.


 あまり上手ではない(=へたくそ)ですが,少し遊んでみます.ハブクラゲの項.いかにもいかにもという文体.

その後4〜5年ほど,夏になるたびにミミズ腫れが浮き上がり,痛痒さに悩まされ続けた.現在は毒も抜け切ったようで,痛みや痒さはまったくない.ただし,一番太かったミミズ腫れは,まだ太ももの内側に残っている. I さんは,その傷跡を見るたびに,ほんとうに強い毒だったのだな,今でも怖くなるのだった.


 心霊バージョン.

その後4〜5年ほど,夏になるたびに女性の顔が浮き上がり,頭痛や金縛りに悩まされ続けた.現在は霊障も抜け切ったようで,痛みや金縛りはまったくない.ただし,一番大きかった女性の顔は,まだ太ももの内側に残っている. I さんは,その傷跡を見るたびに,ほんとうに強い霊障だったのだな,今でも怖くなるのだった.


 実話未亡人淫楽の性宴バージョン.

その後4〜5年ほど,夜になるたびに男たちがやってきて,

 ごめんなさい.わたしの力では書けません.


 何かネタ化していますが,この本は雑学的にも面白い.


 とりわけ,たまらないのが様々な「サバイバルアイテム」の紹介.マニア垂涎.わたしがそうだというわけではないですが.

○クマ撃退スプレー「カウンターアソールト」,
http://outback.cup.com/counter_assault.html
 :この輸入元の会社のHPは「クマ情報nの総合サイト」になってます.


○殺蛇剤スプレー「ハブノック」,
http://www.nakagawasangyou.com/habu.html
 :これは知ってました.沖縄旅行に行く同僚に土産として買ってこいと要求したのですが,相手にされませんでした.「ハブの全身に5秒間吹きつけると,10〜15分ほどして激しくもがき苦しみ,やがて体が硬直して動かなくなり,死亡する」そうです.すごく危険なような気がします.間違ってハエに使ったりしそう.


ヒル忌避剤「ヤマビルファイター」,
http://www.tele.co.jp/ui/leech/drug.htm
 :インパクトの強いネーミング.どう戦うのか分かりませんが効きそうです.


○毒吸引器「ポイズン・リムーバー」,
http://www.agaricus.co.jp/asp/ItemFile/10000165.html
 :上のリンク以外にも「poison remover」で検索すると沢山ヒットします.
  わたしは「急いで口で吸え」(スネークマン・ショー)の世代ですが,風情のない時代になったものです.でも死ぬよりましです.


○ダニ剥がし「チック・ニッパー(リムーバー)」,いろいろあります(犬用を含む).
http://www.theticknipper.com/index.html
http://www.otom.com/
 :ちょっとお洒落な小道具です.年頃の娘さんの虫よけにも.
  こんなサイトもhttp://www.biosci.ohio-state.edu/~acarolog/tickgone.htm(「市販のダニ剥がし3種の評価」).


 世の中はどうやらまだまだ面白いです.もう少し生きているのも悪くないかな.