非アカデミズム文体の深淵〜 『野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物』(再掲).
もう一つやっていたブログを思うところあって整理した.少しだけ虫ネタの記事があったのでそこから転載.05年5月15日.
(リンク切れ等修正)
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以前『いろいろたまご図鑑』の記述があまりにも図鑑的でそっけなくてつまらないと書いた.そういえば,その本が書店で平積みになっていた.売れてるらしい.確かにいい本ではある.
今回採りあげる本はその逆の路線を狙っている…?
- 作者: 羽根田治
- 出版社/メーカー: 山と溪谷社
- 発売日: 2004/07/01
- メディア: 単行本
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内容は,山や海で遭遇するかもしれない危険生物(クマとかサメとか)や毒虫・毛虫の類や毒草の小図鑑.カラーページもしっかりしていて,色々な毛虫の写真は目に楽しいです(嫌いな人は夢に出てくると思うけど).ゾエア幼生まで採りあげられているあたりもたいしたもの.
というわけで,これもオススメ本.
ところが,である.この本は読んでいて何だか違和感が.読み進んでようやく分かった.
文体がおかしい.手触りが三流週刊誌の「犯罪実録」「秘密の性の告白」「心霊体験特集」を読んでいる時のそれに近いのです.
まず,リード文が妙に扇情的.ツッコミ所満載.
いつの間にか背中が血まみれ,出血はなかなか止まらなかった.
完全に心霊現象です.ヤマビル.
テントの中に侵入し,就寝中に襲われて絶叫.
猟奇殺人の臭いがします.トビズムカデ(ようするにムカデ).
女性ばかりを狙うサルが住宅地に出没.
もちろんニホンザルですが,わざわざこんな書き方をしなくてもいいんじゃないかと思います.危険だということはビシビシと伝わってはきますけど.
木をつかむと,そこに幼虫がいた.
そりゃあ,いるとは思いますよ.「人間いたるところ幼虫あり」です.マツカレハ.
ところで「まつかれは」と入力したらいきなり,「待つ彼は」の誤変換.なかなかいい感じです.正しくは「松枯葉」.ただの黒っぽい毛虫です.
本文も独特の「実話体験文体」.
Sさんの場合,スギではなくマツの花粉に対してアレルギー反応が出るとの診断だった.今でもSさんは,春になると花粉対策用のマスクを手放せないでいる.(スギの項)
こういう具合に文章の結語部分で,「過去の忌まわしい事件の傷を引きずった現在」を持ってくるのが基本.一気に文章がチープな感じになります.それはそれで面白い.
例をもう一つ.ウニに刺された話(ガンガゼの項).
鋭い痛みは2〜3日で収まった.刺さっていたトゲは,どうなったものか,いつしか消えていた.
こんなレトリックも定番ですね.余韻が安易に残ります.続編を書く時の伏線にもなって便利です.
あまり上手ではない(=へたくそ)ですが,少し遊んでみます.ハブクラゲの項.いかにもいかにもという文体.
その後4〜5年ほど,夏になるたびにミミズ腫れが浮き上がり,痛痒さに悩まされ続けた.現在は毒も抜け切ったようで,痛みや痒さはまったくない.ただし,一番太かったミミズ腫れは,まだ太ももの内側に残っている. I さんは,その傷跡を見るたびに,ほんとうに強い毒だったのだな,今でも怖くなるのだった.
心霊バージョン.
その後4〜5年ほど,夏になるたびに女性の顔が浮き上がり,頭痛や金縛りに悩まされ続けた.現在は霊障も抜け切ったようで,痛みや金縛りはまったくない.ただし,一番大きかった女性の顔は,まだ太ももの内側に残っている. I さんは,その傷跡を見るたびに,ほんとうに強い霊障だったのだな,今でも怖くなるのだった.
実話未亡人淫楽の性宴バージョン.
その後4〜5年ほど,夜になるたびに男たちがやってきて,
ごめんなさい.わたしの力では書けません.
何かネタ化していますが,この本は雑学的にも面白い.
とりわけ,たまらないのが様々な「サバイバルアイテム」の紹介.マニア垂涎.わたしがそうだというわけではないですが.
○クマ撃退スプレー「カウンターアソールト」,
http://outback.cup.com/counter_assault.html
:この輸入元の会社のHPは「クマ情報nの総合サイト」になってます.
○殺蛇剤スプレー「ハブノック」,
http://www.nakagawasangyou.com/habu.html
:これは知ってました.沖縄旅行に行く同僚に土産として買ってこいと要求したのですが,相手にされませんでした.「ハブの全身に5秒間吹きつけると,10〜15分ほどして激しくもがき苦しみ,やがて体が硬直して動かなくなり,死亡する」そうです.すごく危険なような気がします.間違ってハエに使ったりしそう.
○ヒル忌避剤「ヤマビルファイター」,
http://www.tele.co.jp/ui/leech/drug.htm
:インパクトの強いネーミング.どう戦うのか分かりませんが効きそうです.
○毒吸引器「ポイズン・リムーバー」,
http://www.agaricus.co.jp/asp/ItemFile/10000165.html
:上のリンク以外にも「poison remover」で検索すると沢山ヒットします.
わたしは「急いで口で吸え」(スネークマン・ショー)の世代ですが,風情のない時代になったものです.でも死ぬよりましです.
○ダニ剥がし「チック・ニッパー(リムーバー)」,いろいろあります(犬用を含む).
http://www.theticknipper.com/index.html
http://www.otom.com/
:ちょっとお洒落な小道具です.年頃の娘さんの虫よけにも.
こんなサイトもhttp://www.biosci.ohio-state.edu/~acarolog/tickgone.htm(「市販のダニ剥がし3種の評価」).
世の中はどうやらまだまだ面白いです.もう少し生きているのも悪くないかな.