ナミシャク特集(53).ホソバナミシャク.

 前回のキリバネホソナミシャクは♂♀で触角がはっきり異なっていて(見えてさえいれば)簡単だったのだが,ホソバナミシャクは事情が違う.
 講談社『蛾類大図鑑』の執筆者も,これは逃せないポイントと考えたのだろう.

触角は♂♀ともに櫛歯状だが,♂の方が枝が長い.♂の後翅は小さく,後縁部が細いため,CuA1は非常に短く,RsとM1は分岐しない.
(p.469)

 というわけで….やっぱり難しい.
 よほどの差がない限り,「枝が長い」なんて相対的な差異は数見ていないトーシローには判断できない.図鑑とはその対象についてよく知らない人間が利用するのであって,こういう書き方は不親切なような気がする.まして画像では翅脈なんて分からない.
 というわけで「誰か雌雄を知らんや」と言えば後翅の形に頼るしかなさそうだ.
 『蛾類大図鑑』の♂♀セットの図版をギロギロギロと眺める.老眼の入ってきたわたしの眼はたちまち霞がかかるのだが,そんなことはかまっていられない.必死に形の違いを記憶にインプットする.そのほどの熱意を仕事に捧げていれば,わたしの人生はもっと明るいものだったろう.


 まず♀とおぼしき個体から.後翅の外縁部が水平に伸びる感じ.
ホソバナミシャク Tyloptera bella
 08年07月16日.測定漏れ.
ホソバナミシャク Tyloptera bella
 08年07月23日.これも測定漏れ.
 立派な櫛歯に思われる.この程度なら他の蛾なら十分に♂である.


 次に♂であろう後翅の蛾.
ホソバナミシャク Tyloptera bella
 06年06月26日.前翅長15mm.
 後翅外縁から前縁にかけてが単純なヘアピンカーブになっている(と見える).
ホソバナミシャク
 08年06月10日.測定前逃亡.
 触角の差異はよく分からない.写る角度によって見え具合が違うのだろう.


 ホソバナミシャクの学名は Tyloptera bella .
 属名は「tylos ふくらみ,突起」+「pteron 翅,翼」.
 種小名は「美しい,かわいい」.


 ♂♀でサイズの差がありそうな気がする.今後の課題としては,とにかくサボらずに測ること.一目で同定できる蛾には手抜きをしがちなのである.