Actias属の錯綜について(2)。

承前
 せっかくだから画像を貼っておく。道東から写メで送られてきたもの。
オオミズアオ オオミズアオ
 09年7月6日。蛾慣れしてくるとスルーしてしまうほど極々普通種なのだが,初めて見る人には強い印象を与える蛾。


 まず,講談社『大図鑑』(1982)で確認。

[Aticas artemis オオミズアオ
北海道,千島,シベリア東南部,中国北部には原名亜種が分布する。本州,四国,九州,対馬種子島屋久島の亜種 aliena(Butler)(Fig.1-4)では,夏生は黄色味が強く,外横線が黒っぽくて明瞭なことが多い。ことに屋久島産の夏生の♂(Fig.4)は黄色味がきわめて強い。北海道産の夏生にはこのような色彩のものがない。“沖縄”産として命名された xenia Jordan は,タイプ標本を検した結果,本土亜種と同じで(syn.n.),ラベルの間違いと判明した。
(p.589)

 xenia 亜種の発表が1911年。「ラベルミス」ということは,本州産のものを「沖縄」と書いてしまったということなのだろう。“xenia”は元素のキセノンと同じで「異国の,奇妙な」から。
 というわけで,xenia 亜種が出てくるJordanの報文。こうやって調べ物は芋づる式にハマっていくのが常。
 The Macrolepidoptera of the world,v.2,1906,p.211。[ ],改行,下線強調は引用者。

[A.artemis には]3つの亜種がある。


−− artemis Bremer(33b),アムール地方とアスコルド島。おそらく朝鮮にも出現する。内横線はほとんどいつも現れず,外横線は一般に翅脈上の点として見えるのみである。
トリング博物館[英]には,雌雄モザイク形の標本がある(右側♀,左側♂)。
変異種 caeca[光のない,の意] Staudinger は眼状紋のない標本群であって,この呼び名は「シュタウディンガーのラベルカタログ」からは削られている。


−− aliena Butler(33a)は日本の北海道と本州産のものが知られている。横線は通常は明瞭であるが,線が裏面に全く現れていないものも出現する。


−− xenia 新亜種 は琉球の沖縄島で見つけられており,従って実際は旧北区の境界の外側になる。しかし,この種の中で最南部であるから,完全なものにするためには,その形態をここに記述すべきだろう。
前翅には下の中脈の始まりから斜めの線が走っており,この線は他の2亜種に見られない。前後翅ともに横線は明瞭であって,とりわけ内横線は発達している。後翅の裏面には茶色の亜外縁線があり,縁毛は黄色。
ある1標本においては,前縁,襟,脚の葡萄酒色が淡黄色に入れ替わっている。変異種 flavicollis[黄色い首,の意] 新亜種。

http://www.archive.org/stream/macrolepidoptera02seit#page/211/mode/1up

 申し訳ないが,トーシローにはほとんど個体差としか思われない。地理的な分布状況をがっちり抑えていないと何でも言えそうである。
 本土から離れた「島」であるという先入観が生み出した錯誤であるに違いない。


 結局,亜種のネタ調べだけで1日を費やしてしまった。
 A.aliena「種」については次回。
この項続く