「第36回みちのく会」探訪記(9)。

 (承前)。


 【2月28日午後】

 11時過ぎ。これで今年の「みちのく会」とはサヨナラ。来年は青森か山形だとか。
 「M庭荘」脱出。バス停へ一目散。


 高速のアンダーのバス停はコンクリートの壁に小さなカタツムリやミノムシの蓑がくっついている。写真に撮るほどではないと判断する。


 仙台駅内の店で昼食を取ろうと考えるが、たいていの店は公園の炊き出しの様に人が列を作っている。食糧不足下の配給でもないのにどうしてあんなに並ぶのだろう。現在のわたしの経済状況からは、只飯だって並ぶのは嫌だ。食事なんかで自分が得をする必要はない。必要な人に譲ればいい。
 さんざん歩き回って、なぜか比較的空席のあるラーメン屋を発見。出来事には原因があるのであって、なるほど不味い。スープまで完食したが、もったいないと思ったからでしかない。  


 14時40分の新幹線の改札を13時頃に通り抜ける。どこで時間をつぶしても同じ。
 ロビーのTVで「チリ大地震の影響による津波」のニュースをボーゼンと。構内では「津波警報が電車運行に及ぼす影響」に関するアナウンスは皆無であり、わたしはまた義援金を寄付しなければならないのかなとか考えていた。この時は、自分自身に影響が降りかかってくるとは思わなかったからである。


 新幹線はガラガラで快適。八戸で乗り換えて函館へ、函館から苫小牧22時の予定。


 ところが八戸駅は殺伐としている。帽子を深くかぶった駅員がメガホンで何か叫んでいる。津波の影響で青森までしか行かない、とか何とか言っている。オイオイ。
 困った。北海道に帰り着かないのは(やむを得ない理由のもとで)仕事をサボれるから歓迎。駅の待合で2日や3日ぐらい過ごしても平気である。
 でも旅行計画の立て直しに頭を使うのが面倒くさい。今回だって出入りの旅行会社に計画から切符まで丸投げしたのだ。さあ困った。たちまちユウウツになる。


 とりあえず青森までは行ってみる。函館の手前の木古内津波警報でアウトとのこと。いつになるか分からない警報解除までは、電車は全然走る気がないそうだ。命を捨ててでも函館に行きたい一部の乗客と殉職覚悟の運転手で強行突破すればいいように思うが、わたしの考えは間違っているらしい。


 青森駅

 窓口に人がおびただしく並ぶ。今日はよく行列を見る日である。
 どうでもいいので列がなくなってからノコノコと出頭。20時の電車が何とかなるかもしれないとか言う。行列の人々のほとんどはその助言に従ったものらしかった。
 わたしは確実性を重視して、さらに1本遅らせた夜行を選ぶ。本質的に急いでいない。苫着が翌朝の5時で、仕事はサボれないのだが仕方ない。指定席券を書き換え。


 駅はごったがえしている。わたしの前の新幹線の客も足止めを食ったらしく、「2時から待っているのだけれど」と携帯電話の話し声が聞こえてくる。

 いつ電車が動くのか分からないフラストレーションが高まって、子供が泣き叫んだり、サラリーマンが駅員に大声でくってかかったり、さらには暴力を振るったり、暴徒と化した人々が駅弁や南部煎餅を略奪し、自販機を破壊し、女性店員を陵辱したりして、ついには青森駅に赤い旗がヘンポンと翻ったりすることはわたしの頭の中以外では起こらないらしかった。


 駅に隣接したコーヒーショップで夕食。セットの注文を間違える。パンに熱処理された節足動物が4頭も挟まっていた。除去して食べる。


 アナウンスがあって、20時頃に函館行の電車が来るという。多くの人々(新幹線3台分?)の乗る電車である。人々が改札をくぐっていく。

 どうやら電車は来たらしいし、人々は汗牛充棟になって乗り込んだらしいが、発車しない。まだ津波警報が解除になっていないそうだ。例によっていつ発車するか分からない。
 これはきついな。いよいよ暴動だろうか。ホームに駅弁売り場があったな。危ないぞ。とか考えながら、わたしは見れば見るほど脳が劣化していくに違いないTV番組を待合室で眺めていた。こんな番組、作っている方も嫌で仕方ないだろう。かつて新体操会社という漫画家(どうしてわたしのネタはこんなに古いのだろう)の作品で、エロ漫画を書いている主人公が「こんなの書いてたら腐っちまうなあ」と言っていたのを思い出す。


 TV速報で20時30分頃、津波警報解除。ややしばらくして駅構内でアナウンス。「これから線路の点検に入ります。安全確認後発車します」だと。まだ待たされるんだな。チリの人の苦労に比べればゴミみたいなものなのだろうけど。でもゴミだってゴミの言い分があるから積もれば暴動になるかもしれない。
 本当に電車を夜行にずらして良かった。


 結局、発車は20時45分頃だったらしい。
 わたしの乗った22時の急行はまなすは空席だらけ。窓から見ると雪が降り始めていた。 
 翌日の仕事中、わたしが居眠りをしていたことは言うまでもない。
(この項やっと終わり)


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