6月19日補遺。ナカキエダシャク(2)。

 ナカキエダシャクの続き。
ナカキエダシャク Plagodis dolabraria
 6月19日撮影,前翅長19mm。


 さて図鑑の読み比べ。図鑑の記述というのは大げさに言えば「種へのまなざしによって積み上げられていくテクスト」であって,時間軸に沿って並べていくとたまに面白いのである。


保育社『原色日本蛾類図鑑(上)』,p.288;初版1957,改訂新版1971

 開張22〜32mm.♂の触角は櫛歯状。♀は絲状。翅は細長く,前翅は脈3で急にまがる。はっきりした横線を欠き,前翅には無数の短線を散布し,前後翅とも後角付近は紫色。浅い山地では4月下旬〜5月中旬及び7月中旬〜8月中旬に普通。夏生はやや小さく,前後翅とも一層褐色をおびる。食草はコナラ。〔略=分布〕


北隆館『原色昆虫大図鑑 第1巻』,p.223;1965

 ♂の触角は櫛歯状,♀では絲状。前翅には無数の短線を散布し,内・外両線に当たる部分では濃厚後翅後角は暗紫色。前翅長:14〜18mm。山地で4〜5月と7〜9月に出る。食草はコナラ。〔略=分布〕

 下線部の指摘はこの図鑑だけ。画像をいろいろ探してみると,そうであるものもあまりはっきりしないものも。後続の図鑑では不採用となる。
 後翅を特に強調しているのも独特。


講談社『日本産蛾類大図鑑 第1巻』,P.569;1982

 〔ツマキリエダシャク属と合併させる可能性の指摘=略〕。外縁はなめらかで,本種では前翅はM3でやや角ばる.はっきりした横線はなく,前翅には無数の短線を散布する.一般に春生(fig.9)より夏生(fig.10)の方が小さく,翅の色が濃厚.〔略〕日本産はヨーロッパ産とほとんど変わりないので,ここでは亜種は無視した.〔略〕全国的に普通種.幼虫はコナラ,キイチゴなどにつく.


学研『日本産蛾類標準図鑑I』,p.195;2011

開張:♂22〜32mm,♀28〜36mm.本属の♂触角は櫛歯状で各櫛歯の背面は鱗粉でおおわれる.♀の触角は単純.本種は外縁がM3脈でやや角張る.前翅には無数の短線がほぼ平行に走り,前後翅の後角付近は紫色.
〔略=分布〕
[生態]年2化し,5〜6月頃と7〜9月頃に出現し,蛹で越冬する.
[寄主植物]コナラ(ブナ科).ヨーロッパではブナ科に加えカバノキ科,ヤナギ科,バラ科などにつくこともしられており,広食性.
[分類]〔略〕名義タイプ種との相違が明確ではなく,ここでは亜種のあつかいを避けた.Plagodis属は全北区から約20種が知られており,分布域の広い種は多くの亜種に分けられている.〔略〕

 下線部は,講談社本における分類問題への回答ではなく,ツマキリエダシャク属にも同じことが記述されている。要するに記述者が「有益な情報」であると判断したものであろう。
 強調部分も味わうべきであろう。