9月8日。(4/5)。クワコ。

(10月14日記)昨日は大会の打ち合わせで札幌。往復のJRでは『標準図鑑』を広げて,解説のあちこちにラインを引いたり,カギバガ亜科の♂♀の触角の形状について書き出したりしていました。
 もう,札幌行きは全然体力がキツイです。片道2時間でダメージが残るというのは本格的に「衰え」です。


 というわけで,カギバガの図鑑批評は後日にして,ブログの日付はまだ9月。こっちを先に終わらせないと。


 ここ数年,夏場にダウンしてそのままというのが続いているので,こいつは本当に久しぶり。
クワコ Bombyx mandarina
 クワコ。21mm。


 以前にも書いたことがあるが,翅がおかしい。腹背からそのまま一枚板のようにつながっていて,どう羽ばたくのか分からない。
 例えばキマダラオオナミシャクならば翅の付け根が分かるから,羽ばたきを想像できる。
キマダラオオナミシャク Gandaritis fixseni
(再掲)


 クワコだって飛んでここまで来たのだろうから,飛んだに違いない。でもわたしはクワコが飛んでいるのを見たことがないのである。
 捕まえて放り投げても,そのまま落下するような気がして仕方ない。だからやらない。


 この夜もう1頭。
クワコ Bombyx mandarina
 前翅長18mm。はじめの画像よりも少しはましだが,でもやっぱり飛べそうもない。
 飼育種のカイコは飛翔能力を失っているが,原種のクワコにしてもこの有様である。もともとが「飛べない資質」に富んでいるのだろう。


 学名は,Bombyx mandarina。
 “Bombyx”はリンネによる由緒ある命名。リンネの分類について詳しくは当ブログ「『英国産鱗翅目の学名』から(2)」を参照されたし。
 ボンビクスの意味自体は,ギリシア語の辞典を引いても「silk-worm(絹虫)」であって,「蚕」と訳していいのだと思う。
 種小名の“mandarina”はいつもの Moore の命名。マンダリンというのはおそらく果物の方ではなくて「清朝の高級官吏」で,これに -a を付けた造語だろう。原記載(Proceedings of the Zoological Society of London,1872,p.576)を見るとタイプ種の産地が「シャンハイ近郊」なので平仄は合っている。なお,この時のムーアの分類では Thephila 属とされていて,現在これはシノニム扱いである。
 原記載に珍しく図版があるので貼っておく。

 もちろん5番目のやつ。


 6番目(右下)のも似ているのだが,ムーアはこれを Norasuma javanica と命名している。こちらも現在は Gunda 属(Walkerによる)とされていて,「The Moths of Borneo」参照。