リンネ『自然の体系』昆虫編について(5/ )。番外編。Amphizoidae(オサムシモドキゲンゴロウ)。
物事は調べだすときりがなくなる。当連続記事もほとんど準備なしで探索行動的に進んでいるのですぐに枝道に入り込む。
今回はリンネとは関係ない脱線番外編。ある意味,わたしの年の初めにふさわしいかも。これからもちょくちょく場外戦に陥るだろうが,なんでも勉強である。知識は多い方がよい。
ゲンゴロウについて調べていて,Wikipedia;ゲンゴロウ類にスペルミス。
「オサムシモドキゲンゴロウ科 Amphizodae」に“i”が抜けている。科の語尾は規約上「-idae」。EOLも確認して,正しくは「Amphizoidae」。
それにしてもヒドい和名だね。「ナンダカモドキ」ならともかく,「ナンダカモドキナンダカ」ではほとんどキメラである。そういえば「トンボエダシャク」なんかも名前から本気で想像するとなかなか怖い。
1科1属。属名の Amphizoa は「両棲の生物」の意味。何となく見当がつく良い命名だと思う。英名は“Trout-stream Beetle”(鱒のいる川の甲虫)。「オサムシモドキ」というのは和名命名者のオリジナルに決まった。
というわけで,まずは画像探し。日本には分布していないので,日本のサイトはペケ。
- BugGuide.Net;Genus Amphizoa
ああ,変な甲虫だ。首の短い丸っこいオサムシに見える。
リンクジャンプが面倒な人用に版権切れ図版。
それぞれ部分図が付されているのは,それだけ分類が微妙だということだろう。ちなみに前者の文献では,ゲンゴロウ寄りかオサムシ寄りなのかについては「両論併記」である。
次は英語版Wiki「Amphizoa」から。下げなし改行および〔 〕内はyyzz2による。
オサムシモドキゲンゴロウ属は,甲虫の属の一つで,固有の科であるオサムシモドキゲンゴロウ科に置かれる。ゲンゴロウモドキ属は6種を含み,3種が北アメリカ西部,3種が中国である〔EOLで取り上げられている分類では5種〕。
一般名の「trout-stream beetle〔鱒のいる川の甲虫〕」は,昔から知られていた Amphizoa insolens と A. lecontei 〔共に BugGuide.Net のリンク先に画像あり〕が高山の細流にいることに由来する。しかし他の種はもっと低い高度で見いだされる。
オサムシモドキゲンゴロウは陸生甲虫と水生甲虫の過渡的段階にあるかもしれないことで重要である。水中生活を送る反面,遊泳は上手くなく,身体的に他の水生甲虫よりも陸上の甲虫に類似する。
体長は11〜16mm,全体的につやのない黒色で,頭部は四角く,背胸板は鞘翅よりも狭い。
幼虫も水中で生活するが,呼吸は腹部第8節を通して行う。従って水面近くから離れることができず,岩や浮遊物にしがみついている。成虫も幼虫も捕食者であるが,同時に死んだ昆虫の清掃者でもあるだろう。
刺激されると,成虫は尻から黄色い液体を出す。その臭いはメロンや朽ち木のそれであると述べられており,おそらく飢えたカエルに対する防衛メカニズムとなっているのだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Amphizoa
訳とはいえネットにおける最初の日本語でのオサムシモドキゲンゴロウの紹介文だと思う。でもこんな検索語の需要はないだろうな。
もう少しだけ文献読み。
Darlington,NOTES ON THE HABITS OF AMPHIZOA(オサムシモドキゲンゴロウ属の習性に関するノート);Psyche 36;383-385, 1929 から生態についての箇所を抜粋。原文の改行は1行空け,下げなし改行および〔 〕内はyyzz2による。
〔略〕〔p.384途中から〕
このことすべて〔採集ポイント,生息地〕から,オサムシモドキゲンゴロウ属は細流に,つまり〔具体的には〕その流れが曲がっていて餌が運ばれてきそうな場所に隠れ住んでいる。わたしはこの虫が摂食しているのを見たことがないが,彼らがいくぶんかは清掃生物であるとの推測は妥当である。
彼らが大きく移動するかどうかは分からない。しかし,わたしはバンフ〔Banff。カナダ,アルバート州の観光地〕の湖上を飛んでいる lecontei を1頭たたき落とした。
わたしの標本はすべて7月4日から8月19日の間に採集されているが,成虫は間違いなくもっと長い期間現れてる。
新鮮な A. insolens が,7月30日にワシントン州ノースベンド〔North Bend〕近くで採れた。
日中には,オサムシモドキゲンゴロウは目につかないところ,たいていは礫に潜っているか,浮遊物の筏の枝木につかまって隠れている。しかし,夜はもっと活発になるのだろう。
いったんこの甲虫の溜まり場を発見してしまえば,採集は容易である。
虫が岩の間や礫の中にいる所では,川岸を水面の高さまで掘って,同時に川に向かって少し熊手をかける。浮遊物の中にいる所では,それを水上で広げて,棒か手のひらで叩く。どちらの場合もやることは,甲虫の追い出しと覆いからの分離である。
このようにすると,彼らは水面を分けてゆっくり背泳ぎをする。潜れないからである。
標本はしばしば浮いている丸木の割れ目から,とりわけその丸木が沢山の漂流物に囲まれている時に得られている。わずかな個体が岩や丸木の下へ泳いで水中深くへと逃げ,それはドロムシ科のような動きである。しかし行動はほとんどの部分で,ある種のガムシ科にずっと似ている。
実際,ガムシの一種である Hydrobius scabrosus Horn はオサムシモドキゲンゴロウとよく一緒に見つかる。オサムシモドキゲンゴロウがガムシの生活方法を真似ていることは明らかである。とはいえ,Hydrobius は湖岸で見つかることもあるのだが。
オサムシモドキゲンゴロウは臭いを放つが,少なくとも採集者にはむしろ快い香りであって,ホーン〔Horn〕は朽ち木の香りと比べている。この甲虫はまた,関節から濃い黄色の液体を出し,指に煙草のような染みを付ける。
〔略〕
(ああ,〔中学生の頃からずっと〕英語は嫌だ。ラテン系の言語とは頭の使い方が違うような気がする)。
ドロムシなんかはわたしは全然知らない虫で,やっぱり甲虫は種類が大杉(ママ)である。さて,リンネの「ハサミムシ」だか「ハネカクシ」だかに戻らないと。これがまたよく分からない世界なんだ。