名前の意味について。Ectropis属・Eilicrinia属・Elophos属・Ennomos属追加。

 学名について,某質問サイトの回答に「名前と言うものは意味ありて付けるものですよね」とあったが,直接的にはそういうことが全然なのはちょっと自分で辞書を引いて調べてみればすぐに分かる。
 17〜19世紀に付けられた学名なんてものは,しばしば博物館や研究者の所へ送られてきた新種の標本たちに対して重複しないことを最優先に与えられたのであって,「単語としての意味」はあるにはあるのだが,しかしその意味と,姿(標本なのでしばしば変色している)や生態(命名者はその情報をたいていは持っていない)との関係は期待薄なのである。
 現在でこそ学名の由来を原記載文に記すルールがある*1が,昔はそうではなかった。元祖リンネから始まって,「学名の由来」は記載されないのがむしろ当たり前だったようだ。名前は「生物的実体」ではないから,科学的記述からは排除されるべきとされたのではないか。
 わたしみたいにポストモダンの流行った時節に頭を作っていった手合いには,まなざしから独立した実体なんぞとうてい信じられない。ある「種」の内容には「その種についての語られ方」が含まれているに決まっている。そういうことを言い出すと生物学でなくなるのかもしれないが,生物学のために虫に関する知識が存在しているのではもちろんない。
 とりあえず,「任意になされた命名」と「そのそれに即する意図を持ってなされた命名」とを区別・整理するところから始めなければならないと思っている。この弁別からだけでもかなりのことが出てくる予感がある(わたしには時間と知識が不足しているが)。


 HP「yyzz2; 虫画像虫よもやま」に,Ectropis属Eilicrinia属Elophos属Ennomos属追加。
 Endropiodes は今のところ解釈できず。飛ばした。そのうちに何かの関連から分かる時が来るかもしれない。


 今回の更新中,“Eilicrinia”は「純粋なもの」で,おそらく,エダシャクとしては白っぽいかな程度の命名。有り体に言えばテキトウだと思う。
 これに対して“Elophos”は訳ありげな命名である。直訳の「沼地の光」は意味をなさない。エダシャクの大きなグループ“Gnophos属”(「暗黒」の意)との区別・対比のため「-phos」が要請されての命名だと考えられる。これは「エダシャク」によって何が見えているかの問題であって,標本のディテールとは異なったことが語られねばならないだろう。
 “Ennomos”についても,これはおそらく分類学史的大ネタなのだけれども原記載文が見つからない。ましてやドイツ語の可能性がある。わたしにとってここら辺の作業は来世回しとしか言いようがない。

*1:どういう経緯でそのようになったのだろう?