カブトムシの角の遺伝子,新聞読み比べ。
23日,名大の資源昆虫学のチームが,「カブトムシの♂♀の形質の差をつかさどる遺伝子を発見」したという記事が新聞紙面を飾った。
というわけで,日経・毎日・時事通信の記事の読み比べ(他紙の記事は見つからなかった)。読み比べは文化現象としての昆虫研究に不可欠である。
まず見出しから。新聞は見出ししか読まない人がいるくらいだから,アイキャッチは何よりも重要である。
日経−毎日−時事通信の順で。
性差決める遺伝子発見 名大チーム、カブトムシで
カブトムシ:祖先はメスにも角? 戦う必要なく退化か
カブトムシの角、雌に生えた=性差決定の遺伝子抑制−名古屋大
すでに記者の観点・関心が異なってきている。このニュースで何が最も大切なのかの判断の差違である。
全文引用するわけにもいかないだろうから,ポイントのみ抜粋する。
カブトムシは、雄の頭部と胸部に角が生え、雌は角が生えないかわりに全身に毛が多く生える。(…)
さなぎになる直前の幼虫にこの遺伝子の働きをなくす特殊なRNA(リボ核酸)を注射すると、本来雄だったカブトムシの頭部の角は短くなり、胸部の角はなくなった。本来雌のカブトムシは頭部に小さい角ができた。
遺伝子の働きをなくしたカブトムシでは、角だけでなく生殖器も「雌雄中間型」になった。
カブトムシの形態の説明から始まるのが日経の最大の特徴である。カブトムシの♂♀をイメージできない読者への配慮だろう。あるいは記者がそうなのかもしれない。♀にツノがないなんて,都会のビジネスマンは忘れ果てているのだろう。
後は実験について客観的に記述しているにとどまる。
毎日。
この結果を踏まえ、オス、メスとも頭に小さな角を形成するとの情報を体内に持つが、性差を決める遺伝子の働きで形成が促進または抑制されると結論づけた。さらに進化の過程で、メスを巡って戦う必要のあるオスの角が大きくなった一方、メスの角はなくなった可能性があるという。
新美助教は「カブトムシの祖先は、戦い以外の役割を果たす小さな角を持っていた可能性がある。カブトムシの進化の過程を考える成果」と話している。
続けて時事通信。
雌雄とも交尾器も変形して繁殖ができなくなっており、新美助教は「害虫の繁殖抑制策の一つとして応用も期待できる」と話している。
教授は頑張っていろいろと説明しているのだが,記事というものはある特定の箇所を恣意的に取り上げるだけなのがよく分かる。
ご覧の通り,毎日記者は「進化」に,時事記者は「害虫駆除」にバイアスがかかっている。これ,興味関心が違いすぎである。読者の受け止め方が大きく変わってくる。
だからマスコミは,とかいっても仕方ない。やっぱり論文で読まなければダメだねえということだねえ。