日本比較生理生化学会編『研究者が教える動物飼育 第2巻』。

研究者が教える動物飼育 第2巻 -昆虫とクモの仲間-

研究者が教える動物飼育 第2巻 -昆虫とクモの仲間-

 画像をみれば(わずかに)分かるのだが,表題の「研究者が教える」が吹き出しに入っている。
 というわけで,いわゆる普通の「昆虫の飼い方本」とは一線を画す。研究用に生物を飼っているプロたちが,自分の所ではどうやって飼育しているかを丁寧に説明した本である。一般人は持っていないインキュベーターでの温度管理の話も当然のように出てくる(わたしは電子レンジすら持っていないというのに)。
 要するに図書館本である。個人で購入して就寝前にニヤツキながら読むような御仁は,脳に何かが回った数寄者でしかない。わたしである。
 
 ナミハダニから始まってクロキンバエまで,32種の広義の虫(要するにクモとかを含む)が取り上げらる。32種のうち,ペット的な気分で飼われそうなものは,マダガスカルゴキブリ・カブトムシ・クワガタムシ・カマキリ・ハエトリグモ・トンボ・ゲンジボタルナミアゲハ・ハエトリグモの9種ぐらいか。四分の一いっているから,結構多い。読んでいる間は,全然取り付く島のない感じだったのだが。
 その他,アリ類2種は本気で飼うと大変なことになりそうだ。フタホシコオロギとゴミムシダマシミールワーム)はエサ昆虫。玄人向けだなあ。
 
 蛾に関しては「スズメガ」。

 このスズメガは,昆虫科学の世界では代表的な実験昆虫のひとつである。米国で実験昆虫化されたタバコスズメガ(Manduca sexta)は,人工飼料を用いた大量飼育法が確立され,今日では昆虫内分泌学,生理学,発生学を中心に欧米では広く用いられている。(p.171)

 タバコスズメは日本未産なので,日本では近縁種エビガラスズメを用いるとのこと。

飼育スタート物品一覧

品名 型式 メーカー 参考価格
インキュベーター MIR-154 三洋電機 390,000円
深型組バット1号   アズワン 1,150円
蒸し器 バットが入るもの   安価なもので良い
滅菌シャーレ(シャーレ(小)) I-90 アズワン 11,000円(500枚)
セルカルチャーディッシュ(シャーレ(大)) 353020 アズワン 35,700円(100枚)
スチロール角形大ケース(プラスティック容器) WEB2322 サンプラティック 971円
カップ落とし蓋付き200mL   ミネロン 834円(100個)
トリカルネット N23(620mm×50m) タキロン 31,930円

(p.172)

 こういうリストがすべての昆虫についてあげられている。
 困ったなあ。一般人はこのリストを参考に工夫しなさいということなのだろう。それにしてもこんな厳密な表が。「研究者が教える」とどうしてもこうなるらしい。ちなみに最も簡潔なリストはコガネグモのそれ。

品名 型式 メーカー 参考価格
虫カゴ     100〜200円

(p.14)

 
 エビガラスズメのエサ作り。

 基本となる餌は下記の材料から調製する。

  • サツマイモ葉の乾燥粉末:15g
  • 広食性蚕用飼料(シルクメイト(R)L4M,日本農産工業):135g
  • 水:375mL(蒸し器の場合,加熱器具によって調節する)

(p.173)

 以下,調理手順が続く。かき混ぜて蒸して切り分けてラップで包んで冷蔵。食材のサツマイモの葉の粉末は,これは市販されていないのでシーズンに自作して冷凍ストックしておくのである。
 思うに,鱗翅の幼虫はことごとくこういう「蒸し団子エサ」でカサを増して飼育できるなら面白い。木の葉はもちろん,枯葉だってコケだって大量にストックしておけばいい。誰かやらないかなあ。わたしはやりません。
 
 ナミアゲハの衛生管理の記述も面白い。

 〔…〕筆者が使用する飼育室は,飼育シーズンが終了するごとに,ホルマリン蒸気で燻蒸し,消毒している。幼虫や卵を入れる容器は使い捨て用品を使用している。たとえば,幼虫を飼う容器はリスパック株式会社のクリンパック(KR1000B と KR1000TC)を使用し,一度飼育に使ったものは廃棄している。プラスティック製の密封容器などを繰り返し使用することも可能だ。この場合は,一度使ったものは漂白剤などで消毒してからふたたび使用することが望ましい。さらに卵や幼虫の世話をする前には,机は70%エタノールを含ませたペーパータオルで拭き,手も石けんで洗った後に70%エタノールで消毒している。(p.181)

 人手と予算が容易じゃなさそう。
 

 ナミアゲハは,いわゆるモデル生物のような利点はもっていないので,実験動物としてはマイナーな存在かもしれない。しかし,モデル生物の研究から明らかになった知見が普遍的であることを証明するために,非モデル生物を無視することはできない。また,非モデル生物を対象にした研究でも,その種に特異的に興味深い特徴に関するものは非常に魅力的だ。(p.179)

 なるほど。アゲハはマイナーであるらしい。
 ある一人の人間が何かに関心を持つとき,そこに業界上のメジャーもマイナーもない。でもマイナーはいろいろ辛いんだよねえ。
 
 そのうちに第1巻も買おう。