第42回みちのく会一関大会報告だいたい(2/3)。「一人一話」だよ。

 「みちのく会」は「一人一話」から始まる。「一人一話」とは,自己紹介と活動・研究の報告を兼ねたもの。純粋な挨拶あり,最先端の報告あり。
 その若干の紹介。

先日物故した杉氏の思い出話が数人から。

シャチホコのDNA。かなり面白いことになってきている模様。詳しくは近日中に論文になる予定。

仏領ギニアに3人で行った話。モルフォ採り。ヒトリガとシャチホコが多かったが,シャクガはほとんどいなかったとか。

各県で蛾類目録作成が進んでいる。目録は分布の基本情報となるので,科学的価値は高い。でもトーシロー的にはひどく無味乾燥である。記載が2千種後半の県が多い模様。目標は3千種で「ミクロを頑張ればなんとかなる」らしい。でもミクロをやるのは大変である。

シンタイプがどうも怪しいシャクガの分類の話。結論がいつのものになるかまだ分からない。

今年は「ミノムシ」が熱いらしい。ミノムシ関連の話が数名から。蛾界は銘々が好き勝手やっているようでいて,実際は「流行」の力学が強く働く。情報をやり取りし合わないと成り立たない業界であるのだろう。

その他。採集報告いろいろ。蛾の名前が飛び交う。ヒメメンガタスズメの北上とか。長期的なことは分からないが,温暖傾向が虫では出ているのか。

yyzz2。Mooreの『Lepidoptera Indica』の記載リスト配布。誰の関心も引かないのは予定通り。200年前のインドのチョウチョの分類なんて,ここに参集していてる特殊な人々にとってさえあまりにも傍流なのである。ちなみにこのリストは後日ブログ等を通じて配布します。ありがたく拝読するように。

 ほぼ時間通りに終了。以前は時間オーバーが普通だったのだけど。(高齢化によって?)勢いが落ちてきているのかもしれない。
 
 集合写真を撮る。撮影者が「人間はあまり撮らないから」と言う。わたしは「人間のような不浄な物体」は撮らないのでその気持ちがよく分かる。
 それからそれから各部屋へ。KさんがTさんの持ってきた標本を見て,「ミクロはいいねえ」といかにも感に堪えないといった言葉をもらす。Tさんは「標本箱が小さくていいから」と応じる。そして展翅談義になっていく。00号の針と微針との比較。3〜1mm幅の展翅板をどうやって手に入れる(作る)か。
 
 懇親会。小鍋に食パンじみたものが「のたくっている」。お品書きを見ると「せんべい鍋」。厚手のかき餅をふやかした感じ。「きりたんぽ」の堕落した形態だと考えればいい(もちろん褒めている。あっちは苦手)。生魚が嫌いなので刺身も一緒に煮てしまう。
 
 「一人一話」の中で,ミノムシの羽化が上手くいかない話題が出ていた。現代にあっても結構失敗する,難しいものなのらしい。もっぱらわたしの関心はそちら。
 
 さあ,お勉強の時間です。
 16世紀は,アリストテレスにならって「成虫→卵→幼虫→蛹→成虫」のサイクルを認めていない時代(後日ブログにまとめなおす予定)。
 その理由は,

  1. イモムシは原則として自然発生する。そもそも「卵」を生命体と見なさなければ,「ぶどうの絞りかす」から虫が出てこようが,「卵」から虫が出てこようが同じである。(変態metamorphosisと展開developmentとの概念の違いを確認しなければならないのだがまだ準備不足)。
  2. 16世紀の人たちもイモムシの飼育は試みている。ところが「たいていはそのまま死んでしまう」「蛹(これも生命体でない可能性大)で終わってしまう」「蛹からチョウや蛾ばかりではなく,fly(ハエやハチ)が出てくる」。
  3. 上2つからの結論は,昆虫は生物としては「不完全でどうにでもなってしまう」存在である。

 今の目で見れば,幼虫飼育の失敗でしかない。だが16世紀なら仕方ないようにも思える。
 現代でもある種の蛾を羽化まで持って行くのは難行であるようだ。コナラの幼虫の調査をしているKさんの話だと,できるだけ自然の条件に近づけるための試行錯誤を行っているという。ファーブルはつくづく偉かったのである。
 
 翌日の朝食時,同じ話題を他の方々へ振ると,「羽化の失敗」を翅が伸びなかったことや眼を離した隙にボロボロになった方向へ解釈が進んでしまった。成虫を作る苦労が語られなかったのは,生活史が明確になっている普通種ならば,21世紀までのノウハウの蓄積でなんとかなるからであろう。
 
 時間は戻って,2次会は基本的に「持ち寄った標本の同定会」である。わたしの関われない領域であると経験的に分かっているので,お菓子をどんどん食べて適当なところで退散。
 部屋に戻って,布団に潜って,Mouffet 関係の論文を読みながら眠り込んでしまう。