第47会「みくに会」非公式レポート(5)。7月2日夜。

(1)(4)
 
 ひさしからしたたっているの大粒の雨。夕食はジンギスカン@味付である。好みはともあれ,そちらの方がいろいろと合理的である。あのヘンテコな形の鍋で食べるのは二昔ぶり。山盛りの肉を見て,こんなに食べられるのかなといった声があがったが,ジンギスカンは羊の肉をたらふく食べてナンボの料理でしかない。さらにそこに冷凍のアイヌネギが追加される。
 博物館のKUMAさんのTwitter


 
 食後。
 雨は止まないんじゃないだろうか。覚悟を決めた。アルコールを飲むことにする。トランキライザーと重ならなければきっと大丈夫だろう。いろいろな意味での豪の者たちとの会話をシラフで乗り切る自信は,もとよりわたしには皆無である。話について行けないようなら,メートルを上げて早々に寝てしまえばいい算段。
 
 というわけで,実は酒は好き。日本酒やらビールやら焼酎やらを無制限に飲み始めたのだが,恐ろしいことに雨が小止みになってきた。風もおさまった。軒先設置のライトトラップに虫が集まり始めたのが窓から見えた。
 これは天が応援しているのかも。トラップ主の数名に続き,わたしも外に出る。ああ,でも酔ってる。足がおぼつかない。始めはユスリカ,ついで赤茶色のカスミカメが沢山。アミメやハガタのナミシャクはそれほどではない感じ。純正のシャチホコガが昨夜よりも目立つ。
 画像は知る人ぞ知る19世紀のベストセラー昆虫啓蒙作家ウッド師の『イギリスの昆虫 Insects at home』から。Wood, 1884, Insects at home, p. 446 から。

http://www.biodiversitylibrary.org/page/11727081#page/554/mode/1up
 
 時間の経過と共に,雨はすっかり止んで昨夜に負けない蛾日和になった。やっぱり今回の「みくに会」は幸運に恵まれているらしい。次々に毒ビンに転げ込む蛾たちにとっては災いかもしれないが,連中は標本化されてアカデミズムに何らかの寄与をする可能性を持つのであって,コレクターの標本箱の飾り物になるのとは人類史的に違うのである。
 でも,酔っていて少ししんどい。休止。室内へ戻る。玄関に靴が乱雑に脱ぎ捨てられているのが蛾屋の限界である。もちろん部屋の中での喫煙もOKである。
 
 勉強や雑談や。蛾ネタの少なさが,ルネサンス蛾屋であるわたしのやる気のなさの反映でもある。ごめんなさい。

  • (これは講演の時の話)北海道固有種に昼蛾が多いのは,白夜地帯から移動してきた頃の性質がそのまま残っているのではないか。
  • 「北海道−沿海州−朝鮮−対馬」に種の区分に対応するラインが引けるのではないか(生物分布区分論議私見ではほぼ魔境である。ブラキストン線は有名だが,その他にも河野線やら八田線やら沢山あってよく分からない)。
  • 「哲学」とはどのようなものか(もちろん酔ったわたしの発言)。
  • 北海道では教員移動の周期が10年であるのに対して,愛知では2〜3年だとのこと。えー,忙しいなあ。北海道では転勤は文字通りの「数百キロの大移動」になりかねない。
  • 素数が面白い。エクセルでもって数字を一定の方法で積み上げていくと,素数がラインや模様を作るのだという。その人はこれで正月をつぶしてしまったとのこと。数の視覚的な配列からいろいろ分かるのが面白い。「素数は割り算できない単なる面倒な数でしかない」という意見もあるようだが,わたしは純粋文系といえども,F. ベーコンが数学を「第一哲学」としたように,数学は哲学である。数を粒で並べて見せた元祖ピタゴラスの発想は結構本質的なものなのだろうと眼からウロコの思い。気分は聖パウロである。図はサイト「ハイレベル算数教育の胎動 新編算数学入門,第36回 カールの秘密 〜多角数〜」から。


http://www.geocities.jp/yoimondai/2/e36.html#TOP

  • などなど,浮世離れした会話をしていると,重鎮の一人が現れてアツバの♂交尾器が「フニャ××」であると力説し,それから人々がどの程度の頻度で♀個体と交尾するかという話になる。これは浮き世の縄張り。わたしのような celestial(天上的)な人間にはいささか厳しい。
  • 飲みながら展翅作業をしている人。これもすごい。でも大丈夫なのだろうか。
  • スジモンヒトリの♀を採集したのでぜひ「むし賞」にとの自己推薦がある。学会長(=arctiidaephilia)は受賞は間違いない,決定であると請け合っていたが,それはもちろん次の日に裏切られた。

 画像はあのザイツから。Seitz, 1912, Die Gross-Schmetterlinge der Erde, Bd. 2。

http://www.biodiversitylibrary.org/item/38030#page/37/mode/1up
 
 というわけでまた外へ。玄関から真面目に出入りすると,トラップのある軒先までは泥道である。100種,いや200種ぐらい来ているかな,いいえ,きちんと調べれば300はいると思います,という会話が聞こえてくる。雨模様含みで暖気が保たれているのか,わたしが酔っ払っているのか,昨夜のような肌寒さは感じない。
 
 いつまでも蛾を見ていたい気持ちもあるのだけれども,幸せな時間は幸せなうちのどこかで意志的に断ち切らねばならないことが分からない年齢でもない。23時が過ぎている。童話ならあと1時間。わたしはもう寝てしまうことに決めた。
 
 人々は午前2時近くまで採集をしていたという。その頃わたしはとっくに寝こけていた。
 
(6)に続く。