Carige属・Catarhoe属・Chloroclystis属更新。Emmet・平嶋批判。
それじゃあ「TECHNOPOLIS」から。そういう世代なのである。
マニアになってくると,どのアレンジがいいとか悪いとかという議論になるらしいが,わたしはあまりこだわっていない。マニアではないのである。
HP更新。ナミシャクはまだ始まったばかり。
- Catarhoe属
- 図版が見つからない。
- Chloroclystis属
- わたしがよく参照している,Emmet, 1991, The Scientific Name of British Lepidoptera, p. 175では,後節について
κλυζω(kluzô) の語根から,洗うこと,洗い流すこと。この属の種のあせやすい緑の色合いから。
とある。たしかにあの緑はすぐに飛んでしまう。
でも,1次資料が参照できるなら,それを確認せねばなるまい。というわけで,Hübner, Verzeichniss bekannter Schmettlinge(既知の蝶蛾目録), p. 323 へ。
例によって,ドイツ語のヒゲ文字が出てくる(ああ嫌だ)。こうある。昔の人はこの程度の記述しかしていないのが普通である。
Die Schwingen, wie der Kopf, grünlich gefärbt, grau bandirt und schwarz gewässert.
困った。ヒゲはともかく,綴りだか文法だかが今と違う。もともと現代独語でさえ強くない。あえて試訳(超訳に近いかも)。
翅は,頭部と共に,緑色をしていて,灰色な帯と黒い gewässert を持つ。
独語部分は「水で洗われた」「水で濡らされた」という意味だと思われる。ドイツ語に堪能な方はぜひご教示をお願いしたい。
だとすると,Emmet の解釈はおかしい。おそらく原記載を読んでいない疑いがある。(このようにして,わたしは原記載と辞典と自分自身以外をどんどん信じなくなっていくのである)。
可能な解釈は,外横線の黒色部が「黒く塗られた」と表現されたことぐらいしかなさそうである。HPにはそのように記載した。(ちなみに近世では,ラテン語“clystére”が「浣腸」の意味で用いられている。単語的にはこちらの方が対応している。蛾の名前に「浣腸」を用いてもいいのだけれども,あまり気が進まないし,ヒュブナーの記述には適合していないと思う)。
ついでに,平嶋, 2007, 『生物学名辞典』ではどうなっているかというと,“Chloroclystis”は3カ所に出てくる。しかも揺れている。
(p. 227-228)
Chloroclystis susiciosa テンスジアオナミシャク(蛾)。属名:(ギ)chlôros 淡緑色の + (ギ)klyzô 洗う,表面に(蝋を)塗る。翅の色模様から。
(p. 319-320)
Chloroclystis consueta クロフウスアオナミシャク(蛾)。属名:(ギ)chlôros 淡緑色の + (ギ)klyzô 洗う,洗い流す(Emmet)。翅の緑色の模様から。
(p. 893)
Chloroclystis susiciosa テンスジアオナミシャク(蛾)。属名:(ギ)chlôros 淡緑色の + (ギ)klysteon 洗い流すべき。翅の色模様から。
同じテンスジで解釈が異なったりしている。それだけ昔に命名された学名の解釈は難しいということでもある。(ところで平嶋氏も原記載を見ていない? わたしの「2次資料」に対する警戒は一層強まっていく)。
最後にヒュブナーによる図版。
Geometra coronata。C. v-ata のシノニムである。