Hastina属更新。平嶋義宏『学名の知識とその作り方』と「Schulz氏」。

Hastina属更新。

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    • 結構古い蛾なのだが図版が見つからない。ヒュブナーとザイツを除いて,ドイツ系はあまり図版に力を入れていない印象がある。

 

平嶋義宏『学名の知識とその作り方』と「Schulz氏」。

 月刊「むし」5月号の「蛾界」を見ていて,平嶋義宏新刊学名本『学名の知識とその作り方』が出ていたのを遅ればせながら知った。

学名の知識とその作り方

学名の知識とその作り方

 平嶋氏は「蛾類の学名の研究」(『学名の話』収載)にはじまる諸著作を読む範囲では,学名について,命名規約とラテン語の遵守派である(本来はそれが当然なのだが)。わたしがさんざん悩まされている,今回の『標準図鑑』でのジェンダーの取扱いについて,何か触れているかもしれない。
 
 急ぎ読んだ範囲での感想。
 すでに『蝶の学名』・『学名の話』・『生物学名命名法辞典』(これは必読書だとわたしは思っている)・『生物学名辞典』のすべてを読んでいる人はあらためて購入する必要はない。今回は,上記の著作とりわけ後ろ2冊の良いところを上手くダイジェストしたものであって,『生物学名辞典』が Amazonで高騰している現在では十二分に有益なものだと考えられる。
 平嶋学名本の多くは「学名を作る側の立場」の著作であって,「学名を解釈する側」のそれではないということを置いておいても,この『学名の知識とその作り方』はまだ平嶋学名本を持っていない人なら必ず購入すべき。
 
 そのかわり目立つ新味はない。わたしが密かに期待していた蛾類学会(?)への苦言(?)もなく,そこら辺はスルーという状況である。
 
 「むし」誌では,同書で「ヒメハマキ」の学名読解がなされているとの紹介があった。
 わたしが大家の営為のうしろを追いかけて調べ直す必要もその意図も全然ないのだが,たまたま目に付いた箇所。18ページ1行目,Olethreutes schulziana について,

Shulz氏に因む。詳しいことは不明。

とあったので探してみる。問題の種小名はファブリキウス(リンネの高弟。大物)の命名。原記載は「Lepindex」→「BHL」ですぐに見つかる。
 Fabr., 1777, Gen. Ins.: 293

分布はドイツ Dr. Schulz ハンブルク

 この人はファブリキウスに沢山の標本を提供しているようで,幾つもの箇所に「Dr. Schulz」は出てくる。『学名の……』の「Shulz」は誤植だと思う。綴り変える理由がない。(出版社にメールしておいたが音沙汰がないのでブログにしてしまう)。
 もしフルネームが分かれば,たいていはググって何とかなるのだがこれでは情報不足。仕方なくBHLでファブリキウスの他のめぼしい本のOCRを検索する。案外すぐに見つかった。
 Fabr., 1794, Ent. Syst. 3(2): 280

 Schulz,ハンブルクの医学博士。親友にして並外れた博物学コレクター。ハンブルクで胆汁熱〔yyzz2註: 当時用いられた病名「febris biliosa」。嘔吐をともなう熱病を広く指す〕によって死ぬ。

 とある。アマチュア収集家。ファブリキウスがわざわざ説明する程度の知名度と見なしてよいだろう。これ以上のデータは今のところ見つかりそうもない。とりあえず調査完了。