Togepteryx属調べ直し。松村松年におけるタテスジシャチホコの標準和名の混乱について。

 HPのシャチホコ修正中.Togepteryx属の調べ直し
 どんどん面倒な事案が発生する。
 
 タテスジシャチホコの属名の原記載は,松村松年, 1920, 動物学雑誌 32 379: 149 (PDF)。
 すると,こう。

(二三) ハガタエグリシャチホコ Togepteryx (n.g.) velutina OBTH.

とあって,これが学名的に現「タテスジシャチホコ」。そしてすぐ後に2度目の

(二四) ハガタエグリシャチホコ Hagapteryx admirabilis STGR.

で,こちらの学名は現「ハガタエグリシャチホコ」で合っている。ならば(二三)が単純な誤記載かといえばそういう訳ではなくて(!),「タテスジシャチホコ」の和名は同書のp. 146に

(一五) タテスヂシャチホコ変種 Notodoncta rothschildi WILEM. et. S. var sachalinensis n. var

として出てきている。じゃあ(二三)が本当は何のつもりだったかかといえば,分からない。ちなみ,Notodoncta rothschildi は現「ウチキシャチホコ Notodonta dembowskii」である。さあて,ごちゃごちゃですよ。
 
 それで翌年(1921)の『新日本千蟲圖解』第四巻のp. 811

(848) たてすぢえぐりしゃちほこ Togepteryx velutina Oberth.

画像は,第五拾九圖

これは現「タテスジシャチホコ」で間違いない。
 ところで旧「タテスヂシャチホコ(現ウチキシャチホコ)」は依然として1921年では「旧」のままである。画像は第五拾八圖

モノクロだけどこれも「ウチキ」でOK。
 
 というわけで,和名「タテスジシャチホコ」がいつからどこからTogepteryx velutinaに用いられることに確定したのは不明である。新属Togepteryxの原記載段階で致命的に混乱しているのだから始末に悪い。
 本気で調べるつもりなら日本語の論文や図鑑をしらみつぶしに当たらねばならないのだが,荷が重い気が重い。だから標準和名は面倒なのである。和名の面倒までは見られないよ。
 
 もののついで。オーベルチュールの原記載(Drymonia velutina)からの画像。

 Oberthür, 1880, Études d'entomologie 5: pl. 8