ナカキエダシャク,ウチスズメ.飛ぶオオミズアオのこと.【写真日記虫】

yyzz22006-06-14

 20時,外に出ると一面のガス.街灯の光がチンダル現象をおこしている.
 6月の北海道は1年で最もすばらしい気候のはずなのだが,苫小牧はいつまでも薄ら寒い日が続く.夏冬が穏やかな分のツケが回っているらしい.こうやって平均値が維持されていくのだろう.


 <錦大沼公園駐車場>
 今日は宇宙生物はいない.不審車両*2.片方はこちらの進入と同時に出て行った.
トビマダラシャチホコモンシロツマキリエダシャクアカハラゴマダラヒトリ.常連さんたちの面々.
☆大きめの薄茶色の蛾が転げ回っていたが撮れず.


 <温泉看板>
 アカハラゴマダラヒトリ・小さなシャクガをスルー.
★地面に貼り付いていた小さな蛾.スルーしようと思ったが,撮ってみて驚いた.特徴のはっきりした初物.ネットで見た記憶がある.

前翅長15mm.小さな蛾である.ナカキエダシャク
 皺が寄ったような模様.有名蛾サイトで「インパクトがある」と紹介されていた(「野道を行けば」の「シャクガ−4」)が,なるほど奇妙なデザインだ.もっとサイズが大きければ,もっと話題になっているはず.
 学名は"Plagodis dolabraria",「打撲(鞭打ち)の姿+悲しむ召使い女」か(小種名の解釈は相当ぁゃιぃ).横筋を傷に見立てたものである.言われれば,そうとしか見えなくなる.
 追記(06/4/28):記事中にないがバラシロエダシャク.


 <馬場駐車場>
ウチキシャチホコ
★ポイントB−3地点に,先日取り上げた「モヒカンザンギくん」ことウチスズメ再出現.ラッキーである.
 さっそく背中をつつく.もくろみ通りに下翅を見せてくれた.

見事な眼状紋.クジャクチョウの目玉のように輪郭ににじみを作っていてリアルな印象を与える.


 目玉模様に感嘆していると,地面に影が落ちた.こんな夜に鳥? 見上げると違った.1羽のオオミズアオが街灯の周りを飛んでいる.
 ガスでもやったライトの光の中を,わずかに薄緑の白い大きな蛾が飛んでいる.蝶のようにふわふわと優美に舞う感じではなく,力の入ったばたばたした蛾の飛び方だ.かえって翅の姿の白さが眼を射る.「月の女神」の名.不器用な感じは否めないが,精一杯の美しさがある.
 夜なので,これをカメラで捉える腕はわたしにはない.ただその飛翔を眺めるだけ.しかし,わたしの濁った頭はやがてこの夜のことを忘れてしまうだろう.
 街灯の下を離れて,花壇の植え込みの間や駐車場の上へとばたばたと飛んでいく.時々,舗装の上に落下して小さな音を立てる.何を探しているのだろう.またすぐに飛び立つ.いつまでも飛び続ける
 街灯の向こう側へ回り込むと,植え込みの裏側に飛散した翅が散らばっていた.おそらくは昨夜にもここを飛んでいたオオミズアオがいて,その亡きがらとおぼしい.
 今飛んでいる彼も,今夜限りなのに違いない.彼は朝の光が差すまでに,自らの為すべきことを為すことができるだろうか.
 虫の命も人間の命も,その与えられた期間で十分なのだ,と思うしかない.自分ができたことまでが,自分がやらなければいけなかったこと.余分なことができるほどには一生は長くない.


 虫を見るときに,撮るときに,彼らはいつでも死の影を背負っている.


 わたしがオオミズアオを見上げているほんのしばらくの間に,ウチスズメくんは安心したらしい.後翅の眼状紋を隠し,マホガニー色の地味な姿に戻って夜の路面にとけ込んでしまっていた.