ナミシャク特集(4),ハコベナミシャク.

 ナミシャクはどれも厄介だということが分かってきた.失敗したような気がする.ドクガとかヒトリガから始めればもっと楽だったに違いない.消耗戦を戦っている感じ.年末の追い込み時期に取り上げるテーマじゃないぞ,これは.
 でも仕方ないのでとりあえず続ける.



 ハコベナミシャク.08年08月09日.前翅長16mm.
 外縁側の白い帯が顕著で,縁が擦れていると2色に塗り分けられているかの様にさえ見える.

 06年06月03日.
 同定に迷わないかといえばそうでもない.同属の「フタテンツマジロナミシャク」(「みんな蛾」の画像参照)がよく似ている.これが内地にはいないが北海道には分布しているのである.
 北海道にはいないから候補からはずす,というしばしばあるケースとは逆である.


 ハコベナミシャクとフタテンツマジロナミシャクの,2種の差異がどう表現されるか.
 保育社『蛾類図鑑』.
 フタテンツマジロナミシャクとハコベナミシャクの記事を続けて.いずれもp.203.

(フタテンツマジロナミシャク)
前後翅とも多くの場合黒色の横脈点は明瞭.前翅の中央にある暗色帯の外側は,脈4の部分で角ばり,白帯も明瞭でその中央を淡い褐色線が走る.

ハコベナミシャク)
前種より色彩が暗く,白帯は一層幅が広くて,その中央を走る褐色線がほとんど認められない.後翅は一層暗色なため,白帯がはっきりしていることが多い.前翅の脈4におけるでっぱりは強い.

 北隆館『昆虫大図鑑1』.同様の順で.p.190.

(フタテンツマジロナミシャク)
次の種に似るが,はるかに明るく,後翅の斑紋はいっそう弱い.

ハコベナミシャク)
前種よりも白帯の幅広く,そのなかを通る褐色線は不明瞭.

 どうも分かりにくい.「白帯」が外縁部のそれであることが不明確である.最初わたしはそれを前横線あたりの帯であると読み違えた.
 とりわけ北隆館本では言葉足らずとしか言いようがない.「はるかに明るく」? どこがどう明るいのだろうか.おそらく,前横線−外横線間の暗色部の色が薄いと言いたいのだろうけど.まして,「フタテン」の由来である横脈紋がスルーされている.それじゃあダメである.本の体裁上,必要最小限の記述のスペースが不足であるいう言い訳をするのならば,それは根本的に図鑑としてもっとダメダメということでしかない.


 講談社『蛾類大図鑑』.p.474.

(フタテンツマジロナミシャク)
前翅中央帯の外縁はM3で角ばり,その外は帯状に白い.横脈紋は両翅ともあるが,前翅の方が大きく濃い.後翅は個体により,かなり白い.

ハコベナミシャク)
前種とごく近縁だが,前翅中央帯のM3での突起がいっそう強く,したがって第1室で深く内方に湾曲する.帯の内側に2重の白線はあるが,白帯とはならない.関東以西の低山地のものは前翅の白帯が外方に広がり,後翅は暗色でほとんど白帯がないが,寒冷地のものは後翅がそれほど暗色でなく,白帯が明瞭.これらの中間型もしばしばとれる.

 後発ということも,解説の字数の制限が緩いということもあるだろうが,この程度の説明は当然必要であろう.
 実際にその蛾を見て,どのように視線を走らせるべきなのか.図鑑は蛾の見方を指南する機能も合わせ持っているはずである.



 06年06月15日.
 ハコベナミシャクの学名は Euphyia cineraria .
 属名は「eu- 良い」+「phyē 姿態」.
 種小名は「灰の」.灰色ということなのだろうが,ラテン語で灰色を表す語には「griseus」があって英語のgrayはこちら.「cinerarius」は英語では「cinereous 灰になった」.要するに燃えかすのニュアンスが強い.「cinerarium」だと英語でもラテン語でも「納骨堂」である.そういう蛾であるらしい.