ナミシャク特集(12),キホソスジナミシャク.

 頂点が高ければ高いほどその裾野は広く,一人の勝者の影には数多の敗者がどうしようもなく存在する.それはどうしようもないことだ.
 けれどもどのようなジャンルにおいてでも,トップに立つにはおそらく何かが決定的に欠けていた,小さな個性たちがいる.
 彼らについては忘れられてはならないし,彼らについて語ることをやめてはならないだろう.頂点にあるものたちのためだけにこの世界があるのではないのだから.


 今日のナミシャク.

 08年05月16日.キホソスジナミシャク
 目一杯トリミングしているが,大きい蛾ではない.前翅長10mmだから翅を広げて2cmほど.
 あらためて引き延ばしてみると,なるほど「ナミシャク模様」の変化の一つだと分かる.
 他の種では単なる淡色部の帯となる部分に,3本ずつの黒い波線が入っている.横脈紋は大きく,白く縁取られる.

 07年09月09日.やや擦れた個体.こういう感じのものを目にすることがわたしは多い.


 ネット上の情報はあまり多くない.
 まして海外サイトでは分類学のリストばかりヒットする.どうしたことかと「Lepidoptera and some other life forms」の「Lobogonodes」の記事を見て,この属がアジア方面のものだと分かった.なるほど仕方ないところ.


 学名は Lobogonodes erectaria .
 属名は多義的な単語の寄せ集めですこぶる分かりにくい.「lobos 耳たぶ,(肝臓や肺の)葉」+「gōnos 角(かど)」+「-odes 〜のような形のもの」.あるいはラテンナイズすると「ō」と「o」の区別が分からなくなるから「gonos 」かもしれないが,これは「産まれたもの,種族」であってやっぱり解釈が難しい.
 「Lobogonus」が医学用語に見つかれば簡単なのだが,検索をかけると「ヤスデの属名」がヒットしたりする.さすがに蛾とは無関係なように思う.
 種小名は「erectus 高貴な,真っ直ぐに立った」+「-arius (形容詞を示す接尾辞)」.