ナミシャク特集(18),ナカオビカバナミシャクとその他のカバナミシャク属.

 おそらく個物は「ある」のだろうけど,それが人間に認識されうるかどうかはよく分からない.まして「種」のような普遍についてどう考えるのかは,中世の頃から厄介な問題に決まっている.
 とはいえ,たとえ言葉にすぎないものであろうとも,言葉を使ってものを見る存在である人間にとっては自己の精神に先立って与えられている言葉に自らを晒していくことでしか,その世界は構成され得ないだろう.
 かのアダムは,活動を始める前にまず,すべての野の獣と空の鳥に命名をしている.それが彼の世界認識の始まりである.さもなければ,彼は何もできなかったに違いない.
 そしてアダムの命名という(要請された)起原を引き継いで今の我々の世界認識が存在している.


 というわけで,当ブログでも(どのくらい心から信じているかは難しいとしても)蛾を同定してみたり,種別にあれこれやったりしている訳である.


 シャクガ科には(他の科と同様)幾つかの難関があって,写真では同定がほぼ不可能なグループが存在する.こういう蛾は「みんな蛾」で問い合わせても,なかなかレスがつかない.結局「未同定」で沈んでいくことが多い.

  1. エダシャク亜科のAbraxas属.ユウマダラエダシャク以外は絶望的.
  2. ヒメシャク亜科のTimandra属(ウスベニスジヒメシャクとフトベニスジヒメシャクははっきり言って同じに見える),Scopula属(どれもこれも同じ,擦れるともっと同じ),Idaea属(完全に同じ).この3属で日本のヒメシャクのほとんどを占める.要するにヒメシャクは「分からなくて当たり前」なのである.
  3. ナミシャク亜科のEupithecia属.「カバナミシャク」のグループである.「似たり寄ったり」というのが最も適切な表現であろう.


 というわけで,カバナミシャクはスルーしようかと思ったのだが,せっかくだから取り上げることにする.
 属名の Eupithecia とは「良い猿(平嶋『生物学名辞典』では小人と解釈)」の意.


 1頭目.これは「みんな蛾」でお墨付きをもらっている蛾.

 ナカオビカバナミシャク.06年04月15日.早春のまだ蛾の少ない時期によく目立つ.

 これほど擦れのない新鮮な個体は滅多にお目にかかれない.
 種小名は subbreviata .「少し短いもの」.


 2頭目

 08年08月13日.前翅長11mm.
 前後翅の後角に白い☆が見えるので,シロテンカバナミシャク? 同じく☆のある類似種は北海道に分布していないはず.
 シロテンカバナミシャクならば種小名は tripunctaria .「3つの点のあるもの」.前翅に2つ,後翅に1つ? あるいは前翅1,後翅1,背中に1? しかしそれだと5つだ.


 3頭目

 07年08月31日.前翅長9mm.
 これは自信全くなし.クロテンヤスジカバナミシャク??
 そうだとすれば種小名は interpunctaria .「区切り点,中点のあるもの」.


 後は同定の見当もつかないもの.

 07年05月24日.10mm.

 08年06月07日.10mm.おそらく上と同種.

 07年05月14日.「ナミシャク顔」を確認.