ナミシャク特集(22),キムジシロナミシャク.

 単に白っぽいだけだったり,ただ薄茶色だったりする小さな蛾が,ディスプレイの光の中で鮮やかな模様を見せることがある.蛾の魅力の一つはその驚きにある.始めから陽光の元で輝いている蝶に対する時とは,蛾は全く異なっている.



 キムジシロナミシャク.08年06月30日.前翅長9mmの蛾.
 類似種が多いが,(1)黒い横脈点が前翅後翅とも見えていて,点を挟む黄色線が後縁近くで合流し,(2)点の外側の線とその次の線とは間隔があるということでキムジシロと判断.
 (1):横脈点がないと,ムスジシロ,マンサクシロの可能性が出てくる.
 (2):その2線が接近しているとウステンシロ,カラフトシロの可能性.カラフトシロは前翅がやや細い.

 08年06月30日.前翅長8mm.

 08年06月30日.測定漏れ.この日は3頭出会ったことになる.


 キムジシロナミシャクの学名は Asthena corculina .
 属名は「asthenēs 無力な」から.
 種小名は「corculum」+「-inus 所有・類似の接尾辞」.コルクルムは,研究社『羅和辞典』および平嶋『生物学名辞典』では「賢い」と解釈している.
 解釈としては正しいのだろうが,『Lewis & Short』を引くと「As a surname of Scipio Nasica, on account of his sagacity」とのこと.すなわちポエニ戦争の時のスキピオ・ナシカ・コルクルム.この語に対した時に思い浮かぶ第一感がこの人物らしい.
 「賢人」というニックネームだから,学名解釈としては「賢い」でかまわないのだが,しかしこの白っぽい小さな蛾に反ポピュリズムのローマ元老員議員を重ねてみるのも一興である.どうせなら面白い方がいい.