ナミシャク特集(23),キヒメナミシャク.

 これも白っぽい蛾.このタイプはナミシャクばかりではなく,ヒメシャクにもエダシャクにもいて,場合によってはカギバガまで疑わねばならない.
 面倒を増やすばかりなのでスルーすることも多い.たまたま撮った蛾.
 どれもこれも同じにしか見えない蛾がそれぞれの差異をディスプレイ一杯に表出する.
キヒメナミシャク Hydrelia flammeolaria
 キヒメナミシャク.08年06月30日.前翅長11mm.
 眼視では白っぽいだけ.ディスプレイで拡大すると黄色の波線が帯をなす.図鑑では次のような描写.
 保育社『蛾類図鑑上』.

橙黄色の横線のうち,横脈点の外側にあるものは黒色又は黒褐色をなすことが多い.
(p.221)

 北隆館『昆虫大図鑑1』.

前後翅とも橙黄色の太い横線をもち,横脉点の外側の線は暗褐色又は黒褐色のことが多い.個体によっては,横線が太くて一部は互に融合している.
(p.196)

 「多い」ということは,少数派がいるということである.「Naturhistoriska riksmuseet」の「Hydrelia flammeolaria」の画像などは外線が黒くない個体にあたるのだろう.そもそも黄色線自体が妙に濃い.
 講談社『蛾類大図鑑』は,異なる観点を出す.

前・後翅の横線は橙黄色,個体によっては,中・外横線は帯状.横脈点は明瞭.外横線の外,翅の中央部で翅脈に沿って外縁に向かって橙黄色帯が出る
(p.495)

 面白い.他の類似した蛾と区別するためには,強調部がより適切であるという判断だろう.こうやって図鑑の記述は変化していく.ただし「点の外側の黒い線」は,同定にあたっては非常に便利なポイントである.


 キヒメナミシャクの学名は Hydrelia flammeolaria .
 属名は「hydrēlos 湿った」+「-ia 接尾辞」.
 種小名は「flammeol-」+「-arius 関係・性質の接尾辞」.さて前節について『Lewis & Short』では(1)「flammeolum ブライダルのベール」と(2)「flammeolus 炎の色の」があって,どちらも可能である.ただ(2)は使用例が少ないというが,学名は辞典を調べながら命名するものだろうから,はずす理由にはならない.
 どちらの解釈でも蛾の名前としてはおもむきがあると思う.(1)のベールは一般には「ウェディングベール」と呼ばれるらしい.角隠しの洋物みたいなものだろうか(「失敗しない結婚式のためのアドバイス」内「ウェディングヴェールと手袋」参照).


 さて「UK Moths」を調べてみると,英名は「Small Yellow Wave」である.和名「キヒメナミ」と似たコンセプト.
 あれれ,「UK Moths」の画像も黒線のない個体だ.あちらでは多数派なのかな.