ナミシャク特集(27),トビモンシロナミシャク.

 小さい蛾は撮影中に飛んで逃げることが多い.体が軽いのでアイドリングに時間がかからないからだと思われる.
 この蛾もよく逃げる.前翅長は12〜15mm.
トビモンシロナミシャク Plemyria rubiginata
 トビモンシロナミシャク.08年08月11日.測定前逃走.
 白地と模様とのバランスがなかなかよく取れていて,好感度が高い.真っ白だとよく見かける小蛾だし,マダラエダシャクみたいになってしまうと毒々しい.
トビモンシロナミシャク Plemyria rubiginata
 08年08月04日.前翅長15mm.白トビ気味.これは大きめの個体.


 図鑑の読み比べ.保育社『蛾類図鑑上』.

触角♂で微毛状,♀で絲状.下唇鬚は長く,前翅の小室は1個.(…)前後翅とも外縁部が黒化した個体を f. tenebra Inoue とよび(1121),正常型にまざって普通に発見される.
(p.215,引用文中の(1121)は図版を示している)

 「f.」は「型,品種」を示す.
 黒化型というのは例えばこういう個体.
トビモンシロナミシャク Plemyria rubiginata
 08年08月05日.測定漏れ.後翅の黒縁も見えている.


 これが講談社『蛾類大図鑑』ではこう変更される.

触角は♂♀とも微毛状だが,♀の毛はまだらでごく短い.前翅の小室は1個,後翅の横脈は弱く曲がる.北海道,本州,九州の亜種を japonica Inoue という.(…)♂のなかには前翅外縁部と後翅の暗色な個体(Fig8,9)がしばしばとれる.
(p.486,引用文中の(Fig8,9)は図版を示している)

 つまり,黒化個体は♂に見られる変異であって「型」とかそういうものではない,ということらしい.
 図鑑は新しいほどいい,という当たり前の感想(某H社の不評の改訂版についてはさておいて).


 トビモンシロナミシャクの学名は Plemyria rubiginata
 属名は「plēmyra 洪水,満ち潮」から.種小名は「錆びている」.
 ところで「Plemyria rubiginata」は,平嶋義宏『生物学名辞典』に出てきている.

01 Plemyria rubiginata アゲシオシャクガ(仮称)(蛾).欧州産.属名:上げ潮.種小名:(ラ)さび色の.
(p.481)

 うーん,どういうことかなあ.単純に見落としたとは思いづらいから,日本亜種がかつては別種とされていものだろうか.


 せっかくだからもう1枚.
トビモンシロナミシャク Plemyria rubiginata
 06年08月10日.前翅長12mm.
 真夏の夜の蛾である.