ナミシャク特集(33),クロオビシロナミシャク.
「みんな蛾」で「シロナミシャク」を検索してみると23種ヒットするが,その属は11属にわたる.
これは「シロナミシャク」は見た印象による括りであって,分類学とは対応していないということ.対して「コバネナミシャク」は15種3属.その15種のうちTrichopteryxが13種を占め,こちらはほぼ属と対応している.
それでは逆にTrichopteryxから和名「コバネナミシャク」との対応を見ると,日本のTrichopteryx15種のうち,「コバネナミシャク」ではなく「シロナミシャク」が2種いる.クロオビシロナミシャクとホソクロオビシロナミシャクである.
07年05月16日.前翅長14mm.
夜目にはよく目を引く蛾である.美しいかどうかは好みの問題であろう.蝶の翅しか見たことのない人なら,発想の全く異なるデザインに一瞬たじろぐかもしれない.
08年05月01日.前翅長15mm.
一見してガクガクの帯模様の基本パターンはナミシャクのそれ.とはいえ,やっぱり「コバネナミシャク」とは感じが違う.かなり個性の強い部類に属すると言ってよい.その割りには和名が平凡だったりする.
クロオビシロナミシャクの学名は Trichopteryx ustata .
属名は「毛深い翅」.種小名は「usta (辰砂を焼いたような)赤色の一種」+「-atus (接尾辞)」.帯の色を示していると思われる.
「辰砂色」という色があって,福田邦夫『色の名前507』(主婦の友社)によれば「R200,G112,B102」だという.色を作るソフトをお持ちの向きは試してみるのも一興かもしれない.
さて,「ホソクロオビ」とどう違うかという話.
保育社『蛾類図鑑上』.
(クロオビシロナミシャク,p.195)
外横線が強く屈曲すること,その外側は黒褐色で縁取られることによって特徴づけられる.(ホソクロオビシロナミシャク,p.196)
前翅内横線は細く,後縁に対して垂直をなし,外横線の外側を縁取る黒褐色ははるかに弱く,外横線は中室の下で弱く湾曲し,後縁の中央よりやや外側に寄る.
ここでテーマにされているのは「外横線の走りが異なる」である.
北隆館『昆虫大図鑑1』では掛け代が変化する.
(ホソクロオビシロナミシャク,p.187)
前翅はやや緑色を帯び,内横線は前種(引用者註:クロオビシロナミシャク)のような黒線をなさず,外横線から外縁までは前種よりもむしろ暗いが,外横線の外側のぼかしは黒よりも褐色のことが多い.
「外横線の走り」は放棄される.替わりに色が持ち出される.
講談社『蛾類大図鑑』.
(ホソオビクロナミシャク,p.465)
前翅の内横線は非常に弱く,まれに多少濃くとも,1A脈から後縁にかけてそれほど外方に傾かない.内横線の外側や外縁部は褐色をおび,前種(引用者註:クロオビシロナミシャク)のようには白くない.
結局,外横線の湾曲は「使えない」ということなのだろう.内横線と外縁で見分けるべきということである.
この個体も,内横線の傾斜はあまり明確ではないが,その強さと翅全体の色からクロオビシロナミシャクと判断したもの.
08年04月29日.前翅長14mm.