ナミシャク特集(36).ホシスジトガリナミシャク.

 明け方近く突然眼を覚まして,amazonで『The Scientific Names of the British Lepidoptera』を衝動的に注文.
 それから突然,帯畜大の心理学研究室内「ABOFANへの手紙」を読み出す.時間がどんどん過ぎていく.
 そう,そうそう,アカデミズムの先端における真理の戦いの無味乾燥さに辟易して,わたしは脱落したんだっけ.もう正しいことは何一つ書きたくないと思った.だから大学に提出した修士論文は「夢」を語ったものでしかなかった.
 でも,そういうつまらない些末な手続きに塗り込められた単調なレトリックのその裏側には,しばしば訳の分からない情念が渦巻いていることもわたしは知っている.この「思い」がわずかに透けて見える時,その論文は小説よりもずっと面白い.


 さてさて,またナミシャク再開.
 ナミシャクの長期特集なんて誰も読んでくれていないに違いない.意気が上がらないことはなはだしい.


ホシスジトガリナミシャク Carige cruciplaga cruciplaga
 ホシトガリスジナミシャク.08年08月13日.前翅長16mm.
 写真写りは上々.確か小雨の日に,雨宿りをするように壁にとまっていたもの.
ホシスジトガリナミシャク Carige cruciplaga cruciplaga
 同じ個体.


 この蛾は当ブログでは「外縁の黒紋」に着目して「ホソバトガリナミシャク」としてきたが,今回調べ直してホシスジトガリナミシャクと訂正する.すなわち,「みんな蛾」の「ホソバトガリナミシャク」の項

ホシスジトガリナミシャクに似るが、斑紋は強く、ことに外縁の黒紋がよく発達していると図鑑にあるけれども、翅型も含めて考慮したほうが良い

 つまり,講談社『蛾類大図鑑』(p.467)の,

(ホシトガリスジナミシャク)
前翅外縁はM3で角ばり,後翅はM1とM3の間でへこむ.

(ホソバトガリナミシャク)
前2種(引用者註:ホシトガリスジナミシャク,ヒロバトガリナミシャク)よりも翅が長く,前翅外縁のM3での角ばりは弱い.

が手がかり.
 『蛾類大図鑑』の図版の標本写真に定規を当てて前翅後角の角度を比較するはめに.かくして上の画像の蛾は「ホシトガリスジ」と決着した.北大苫小牧研究林の「苫小牧研究林で採集されたガ・チョウのリスト」にもその方が対応している(「ホソバ」は報告されていない).


 ホシスジトガリナミシャクの学名は Carige cruciplaga cruciplaga
 属名はわたしの力ではヽ(´A`)ノ オテアゲー.
 種小名・亜種名は「crux 十字架,拷問」+「plaga 打ち傷」.外横線上の模様からだろう.イエスの受苦を連想させる表現である.
 そういう蛾が,苫小牧の夏の夜にふと現れる.