『英国産鱗翅目の学名』から(2)

 <3> 「蛾(Phalaena)」の分類.

  • スズメガについては特筆すべきことはない<3−2>で.ここでは「蛾(Phalaena)」に話を絞る.

リンネは「蛾」を,「より容易に探求されるために」7つに区分している.
 (p.25)
 ※えらくプラグマティックな表現である.

  • リンネはとまっている状態を中心に「蛾」を分けている.種数は平嶋『蝶の学名』(p.18)から.
  1. Bombyces  ※ラテン語の「カイコ」
    • とまっている時に体の上で翅をたたむ.
    • 櫛歯状の触角を持つ.
    • ※リンネは58種を数えている.現代のカイコガ上科の蛾(カレハガ・オビガ・カイコガ・ヤママユガ)とドクガ科の蛾を含む(もっとあるかもしれないが調べきれなかった).カイコやヤママユが「翅をたたんでいる」とは思えないのだが,後述のシャクガとは異なるものを直観したのだろうか.
  2. Noctuae  ※「フクロウ」あるいは「夜」から.現在は「ヤガ」を指す.
    • とまっている時に体の上で翅をたたむ.
    • 剛毛が生えているが櫛歯ではない触角を持つ.
    • ※68種.後述のようにアツバ類をリンネはヤガに含めていない.
  3. Geometrae  ※「幾何学者」.シャクトリムシのこと.「シャクガ」である.
    • 翅を水平に広げてとまる.
      • Pectinicornes(※櫛の角)→櫛歯の触覚.語尾は「−aria」.
      • Seticornes(※剛毛の角)→剛毛の触角.語尾は「−ata」.
    • ※75種.腹部が翅に隠れないことでメイガと区別される(後述).
  4. Tortrices  ※「巻く者」.「ハマキガ」にあたる.
    • 翅が尖っていず,断ち切られギザギザになっているように見える.
    • 平らで小型の種である.
    • 語尾は「−ana」.
    • ※ 現在のマルハキバガを含む.確かにハマキガと紛らわしい.24種.
  5. Pyralides  ※「火の中で暮らすとされた鳥または羽虫」.灯火に来ることからだろうとEmmetは考えている.この語は現在の「メイガ」.
    • 翅を鋏のように三角に(重ね合わせて)閉じている.
    • 語尾は「−alis」.おそらく「Pyralis」の語尾から.
    • ※腹部が翅に隠れることでシャクガと区別される.(後述)
    • ※8種.アツバ類はすべてここに分類されることになる.(後述)
  6. Tineae  ※衣類を荒らす鱗翅の幼虫の類を指す.「イガ」.
    • 翅を筒のように巻く.
    • 語尾は「−ella」
    • ※66種.ツトガ・ツヅリガを含む.
  7. Alucitae  ※「ブヨ・蚊」の意.この語は現在では「ニジュウシトリバ」だが,リンネはニジュウシトリバとトリバガを区別しておらず,Alucitaeはトリバガと「ガガンボ」の姿を重ねたものとEmmetはしている.
    • 翅は基部に向かって指状に裂けている.
    • 語尾は「−dactyla」(指).
    • ※6種.


(p.21)

  • さて,具体的にこの区分でどんな蛾がどこに分別されたか興味津々なのだが,現在の手元の資料では調べきれない.
  • 語尾に規則を与えてグループを明示しようとする発想は,日本の命名のそれと同じである.日本の蛾の名前はどれもこれも似たり寄ったりで個性に乏しいことすべて簪に勝えざらんほどなのだが,一種の理想の実現ともいえる訳である.
  • 次回は,現代の分類との齟齬について.


<リンク:「みんな蛾」>