『英国産鱗翅目の学名』から(3)
<4−1>リンネによる分類と現在の分類との齟齬.「ヤガ」と「メイガ」.
- リンネは「蛾(Phalaena)」(←そういう「属名」である)を,とまり方や触角によって分類するのだが,それ故に現代の分類とは合わない種が多数出てくる.
(以下は原著p.21を元に構成.画像リンクはもちろんyyzz2による.略号は記事末尾に)
- Phalera bucephala → 櫛歯状触角ではないので「ヤガ(Noctuae)」へ
- [画像]http://ukmoths.org.uk/show.php?id=32 (UKM)
- ※日本には当該種なし.ツマキシャチホコと同属.
- ※推測だが,シャチホコは「カイコガ(Bombyces)」に分類されているのだと思う.
- ※ヤガとシャチホコは結構微妙なところがある.
- Cerapteryx graminis → 櫛歯であり,「カイコガ(Bombyces)」へ
- [画像1]http://ukmoths.org.uk/show.php?id=179 (UKM)
- [画像2]触角についてはhttp://www2.nrm.se/en/svenska_fjarilar/c/cerapteryx_graminis.html (MBE)
- ※日本には当該種・属なし.ヨーロッパではポピュラーな蛾であるようだ.
- ※どう見たってヤガでしかない.
- これらは語尾の秩序に影響しない.
- 「メイガ(Pylalis)」に分類されて語尾が「−alis」になった「ヤガ(Nocturnae)」.
- Agrotis vestigialis → 触角が櫛歯なので,「メイガ」へ.
- [画像1]http://ukmoths.org.uk/show.php?id=662 (UKM)
- [画像2]http://www2.nrm.se/en/svenska_fjarilar/a/agrotis_vestigialis.html (SVF)
- ※命名はリンネではなく,Hufnagel.1766年.まだリンネの規範が支配的だった頃.
- ※日本には当該種なし.カブラヤガやタマナヤガと同属.
- Tholera decimalis → 触角が櫛歯なので,「メイガ」へ.
- [画像]http://ukmoths.org.uk/show.php?id=3290 (UKM)
- ※見事な櫛ヒゲである.この蛾の来歴がまた難儀なのである.Podaによる1761年の命名について,Emmetは次のように解説している.
強い櫛歯の触角を持つことから,この蛾がリンネの定義上Noctuaeから除かれるのはともかくとして,Podaは混乱しているように思われる.彼はこの蛾をPhalaena(Geometra)として記述しており,Geometraなら「−aria」の語尾でなければならない.ところが,彼は,Pyralisに属する「−alis」語尾を用いているのである.Podaは二股をかけたのかもしれない.リンネの分類におけるGeometraとPylalisを統合する単一の科としてのPhalaenaが作られたのはその後である(Fabricius,1775).(p.203)
- ※要するに命名の時点で「シャクガ」と「メイガ」の区別が揺らいでいたということだろう.Fabriciusはそれをまとめてしまった.
- ※高弟Fabriciusはリンネの分類を初めて本格的に改変した人物.1775の数字は記憶されていいだろう.リンネの分類がどのように変化していったかは後述することになる.
- ※Fabriciusはこの蛾をBombyx(属名の再編があるものらしい)としている.
- ※わたしにはやっぱりヤガに見える.現在の知識がわたしの眼をゆがませてしまっているのだろうか.
- アツバ類はとまった時の翅の形状から「メイガ」扱いである.
(つづく)
【略号】
UKB:UK Moths
SVF:Svenska fjärilar
MBE:Moths and Butteflies of Europe