『英国産鱗翅目の学名』から(6)

<4−3>リンネによる分類と現在の分類との齟齬.「シャクガ」と「メイガ」.

  • (つづき)
  • 「シャクガ(Geometrae)」と「メイガ(Pyraris)」について.
    • 共通点 :翅が幅広い.翅を平らに広げてとまる.
    • 「シャクガ」 :前翅の後縁が腹部へ届くほどだが,腹部は見えている.
    • 「メイガ」 :後縁が触れ合う,または鋏状に重なっていて,腹部を隠している.
  • 多くの蛾で語尾(シャクガ「−aria,−ata」,メイガ「−alis」)の対応がうまくいっていない.
    • とまって直ぐと,深く眠っているときの姿勢が異なる種がある.
    • 標本をもとにとまっている姿勢を推測して命名された種が多い.
  • Scopoliによって「シャクガ」が「メイガ」(−alis語尾)として命名された例.
    • 前翅が腹部を隠す(あるいは標本がそうなっていた.※かつては生態に近いスタイルで展翅された標本が作られたそうである).
  • リンネによって他のグループに入れられた例.
    • 腹部が出ていることから,「メイガ」→「シャクガ」(-ata語尾).
    • 翅が止まっている時に「鋏刃状」で,前翅が狭くて三角に見えないことから,「シャクガ」→「イガ」(−ella語尾).
      • Chesias legatella [画像](UKM)
        • ※日本にいないナミシャク.
  • 我々から見て常軌を逸していても,リンネは分類規範を目一杯遵守しているのである.

(pp.21-22)

  • ※蛾の学名のリストを眺めていくと,なるほどポツンと語尾違いが混ざっている.
  • 「シャクガ」の命名にはもう一つ問題があった.
  • 「シャクガ」は触角によって語尾「−ata」「−aria」の区別がなされる.
  • タイプ標本が♀だった場合,「−ata語尾」が「−aria語尾」に合法的に取り替えられる.
    • ※つまり♂♀で触角の形が違うということ.
    • かくして,「grossulariata」・「grossuariaria」のような語尾違いのシノニムを持つ種に事欠かなくなる.

(p.22)

  • ※試行錯誤と混迷は続く.分類学ってそうなのだろうなあ.
  • ※次回は「ハマキガ」・「イガ」.