アケビコノハ(Eudocima tyrannus)の学名について。

 (また学名ごっこが始まるよ。)
 (蛾を観念として捉えることに関心のない方とはここで (´ー`)/~~。)

 アケビコノハの学名は Eudocima tyrannus(えうどきま てぃらんぬす)。
 属名はおそらくギリシア語の形容詞 eudokimos「名声の高い,高貴な」の名詞化。
 名詞は辞書的には eudokimêsis「名声」とか eudoxeô「名声が高いこと」なのだが,dokimê「美質,証拠」という語があるので eudocima でもヒョーソクはあっているようだ*1
 種小名は「独裁者,僭主」で,<名詞+名詞>の学名。
 「高貴さ+独裁者」。丈の高そうな単語の組み合わせで,なかなか良い命名と言えそうだ。


 せっかくだから“tyrannus”がらみで,もう一考察。

 アケビコノハはかつては Ophideres*2属とされていた。
 その Ophideres属に,アケビコノハに30年先立ってヒメアケビコノハ Ophideres princeps(現在では Eudocima phalonia のシノニムとされて使われなくなった名称)が命名されている。
 プリンケプスといえば,高校の世界史の知識。
 帝政ローマ初代のアウグストゥスが自らを「元首」と名乗ることで,専制的性格を言葉のイメージの上で和らげた,その princeps である(「プリンケプス−Wikipedia」参照)。
 更に,この属には imperator種もいて(残念ながら日本には分布せず),こちらはローマの「皇帝」の意(「インペラトル−Wikipedia」参照)。


 princeps(元首),imperator(皇帝),tyrannus(僭主)と,古代ギリシア・ローマの権力者たちの思いと興亡をその背に負った蛾たち。

*1:語尾の“ê”はラテンナイズする時は“a”となる。

*2:「蛇の首」の意。幼虫のスタイルからだと思われる。この秀逸な名称が現在は消えてしまったのを惜しむ。