Actias属の話の続き。Actias gnoma について(1)。

 「Actias属の錯綜について」の続き。
 せっかくだからということで,オナガミズアオ Actias gnoma ネタ。
オナガミズアオ Actias gnoma
 これは再掲。2009/5/27。


 A.gnoma 種の初出は,『The annals and magazine of natural history,Vol.20,ser.4』内,Butler「Mr.A.Butler on new Species of Heterocera from Japan」。
 極々簡潔。

 51.Tropaea gnoma n.sp.[新種]
 T.artemis [旧オオミズアオ]に似るが,より小型で,緑に青みがより強い。翅脈は褐色で,白くはない。縁毛は白っぽく,後翅の尾はより一層幅狭く,長く,一層反っている。開長4インチ3〜4ライン[108〜110mm]。
 横浜(ジョナス)。


(p.480)

 この頃の属名“Tropaea”は「戦勝記念碑」あるいは「海風」の意。ちなみに現在の“Actias”はおそらく「光,栄光」。種小名“gnoma”は「しるし,知恵」。


 この A.gnoma(オナガミズアオ)も,「artemis - aliena」(オオミズアオ)同様に亜種なのか別種なのかよく分からない状況にあるようだ。


 何かと言うと,現在とりあえずオナガのシノニム(実は同じ種だったということ)とされている T.dulcinea という種がいて,こいつも Butler 命名なのだが,その報文が振るっている。
 『Transactions of the Entomological Society of London,1881』内の Butler「Mr.A.G.Butler's Descriptions of new Heterocerous Lepidoptera from Japan」(pp.14-15)。前半は順当に T.dulcinea 種の記述。

 28.Tropeae dulcinea,n.s.[新種]
 ♂。前翅がかなり細く伸びていることを除いて T.gnoma の形態[formは分類学上の「品種」? でも n.s. 扱いである]。T.artemis に最も似るが,T.artemis なら前翅前縁部が白くなく,頭部背側にプラム色の帯がなく,翅の裏面にも横線がないことで区別される。前縁は顕著に長い。翅は淡緑色,基部で白く,白い内縁縁毛を持つ。外縁縁毛は淡い藁色。眼状紋は小さく,卵形,藁色で,細い線状の透明な瞳を持ち,内側の境界は白い縁の湾曲した黒斑で塗られる。前翅前縁外端はプラム色。胴体は白色。頸部背側はプラム色。触角は煉瓦色。開長5インチ3ライン[109mm]。
 雄。 東京(Fenton)。

 画像なしで文字だけ追って訳することは地獄的である。誤訳や勘違いがあるやも。リンク先の原文は英語なのでぜひとも。


 それでも,ここまでは穏当。
 さてこの後,この報文は T.dulcinea などそっちのけで,Butler先生は「my T.gnoma」を巡ってMaassen先生と場外乱闘に突入するのだが,そちらは次回に。
この項続く