Actias属の話の続き。Actias gnoma について(3)。

 忙しいのと気力と語学力がないのとでコーシンが滞っております。


承前


 ここまでの流れ。
【発端】
・イギリスの バトラー(Butler)が新種として発表した Tropeae gnoma(オナガミズアオ)[当時の属名は Actias ではなく,Tropeae である]について,ドイツのマーセン(Maassen) が「擦れた T.artemis[旧オオミズアオ]である」と述べる。
【バトラーの反論】
・擦れていない個体だって自分は知っている。
オナガの特徴は尾にある。
・個体差に関するマーセンの論は当てにならない。


 というわけで,続き。

 第2に,マーセン氏は,彼が T.luna とみなした標本をどうやって同定したかを述べていない。(彼が個体変異とみなしている)諸形態が種として記述されていないという報告が正しいかどうか明らかにするには,その種についての形態の記録すべてを参照して目を通していなければならないのだが,彼はその点をわれわれに明らかにしていないのである。
 いや,逆に,彼は賢明にも「私の知る限り」と言う。彼の言葉では(以下,引用部は独語)「今日まで,私の知る限り,誰一人として,博学な Grote 氏にいたるまで,個々に違う T.luna の同定の正しさの基準をもうけたり,個体差をもとに様々な[新]種を打ち立てたりはしていない」。

 訳がかなり悪い…。原文にあたってください。
 要するに本音を推測すれば,あんたの同定だって当てにならないよ,ひょっとしたらあんたの luna には別種が混じっているんでないの,という話。まして gnoma なんて artemis とは違うに決まっているのである。
 でもそれは百歩譲って…,で次に移る。

 第3に,マーセン氏の変異個体すべてが同じメスの卵から育てられたと仮定するならば,それらは同一種の異常発達した奇形とみなされるのには異論がない。
 前翅の形態,すなわち前翅全体が明らかに著しく鉤状になっているという T.luna の特徴について異なっているものが,それらの中には一頭もいないと記されているようである。というのも,その逆のことは書かれていないからである。

 つまり,「肝心の翅型が同じじゃんか,変異だなんてふざけんなよ」ということ。
 Butler先生,論点を絞らずに手当たり次第にかみつくので話が分かりにくいことこの上ない。わたしが小論文の採点者なら高い点数はあげられません。

 最後に,一つの属における一つの種の個体変異は,他種の恒常性の程度を図る導きにはならない。天候条件が,ある場合にはただちに変異を生み出すかもしれないが,その他の場合については全く未知である。
 故ヒューイットソン(Hewitson)氏[オオムラサキをはじめ,多くの蝶の命名者]は,似た形をまとめてしまう傾向でよく知られているが,彼でさえ時には,友人たちを驚かせるほどに種の変異の幅を狭く考えることがあった。彼の Ithomia 属と Pronophila 属[いずれもトンボマダラチョウの類。サイト「ぷろてんワールド」内「トンボマダラ亜族のページ参照」]の種のいくつかは,触角の色合いや裏面の白点一つで区別されたのである。

 およそ論理的な展開のはっきりしない文章で,どうにも初学者(虫についても語学についても)には困ったもの。
 Butler氏の結論としては,個体変異と新種の判断については同定ポイントと「節度」を持って,とでも結論すればいいのだろうか? そしてもちろんT.gnoma は独立種である。

 最後に蛾像。再掲。
オナガミズアオ Actias gnoma
 もちろん尻でしかない。


(この項終わり)