「第36回みちのく会」探訪記(5)。

 (承前)


 【2月27日昼の3】
 14時スタート。小沢幹事長挨拶の後,「一人一話」。1人ずつ何か話をしていくのだが,28人のメンツに対して3時間が確保されている…。
 自己紹介あり,図鑑原稿の進捗連絡あり,最新の研究テーマ,採集報告プレゼンなどなどありあり。 ( ゚д゚)ノ ハイ!質問!あり,ナンデヤネン┌(`Д´)ノ)゚∀゚ )ツッコミあり。本やら標本の小箱やらも回されてくる。
標本
 カオスなのかアカデミックなのか,蛾への情熱があれば大抵のことは許されてしまうようだ(他学会比)。
 わたしが何を喋ったのかとかいう下世話なことはどうでもよろしい。


 以下はわたしのメモから。後からでは解読不能なものが幾つもあったり,発表者が誰なのかに全く関心がなかったり,「聞き書き」なので内容を正確に反映しているかは保証の限りでなかったり,要するにおびただしく不完全な情報である。
 無責任ではあるが,「会の雰囲気」を伝えるのが目的であるとしてお許しを願いたい。

 日本産のシロスジシャチホコは,タイプがウスリー産である Nerice davidi とは実は別種であって,shigeosugii種とする。

 困ったなあ。HPを書き直さなければならなくなる。
 これはわたしの手持ち画像。もちろん再掲。
シロスジシャチホコ

 ユーラシアオホーツクヨトウ(「みんな蛾」http://www.jpmoth.org/Noctuidae/Hadeninae/Apamea_monoglypha.html)は道東で初めて採集された後,分布を南へ拡大中。

 会場から,ヨーロッパかアメリカから輸入された牧草による外来種なのではないかとの意見が出る。

 クロスジシロコブガ Nola taeniata (「みんな蛾」http://www.jpmoth.org/Nolidae/Nolinae/Nola_taeniata.html)の従来と異なる種が沖縄島で見つかっており新種の可能性を検討する必要がある。
 岩手産のもの・琉球産A(従来のもの)・琉球産B(今回見つかったもの)・台湾産の4つのクロスジシロコブガを切ってみると,

  • 台湾産のものは明らかに交尾器の形状が異なり,別種と見なせる。
  • 岩手と琉球Aとは区別できるかどうか難しい。同じかもしれない。
  • 琉球Bは別種の可能性が強い。

という結果になった。

 コブガだからねえ。あんまり研究されていないのだろうねえ。

 スゲドクガ(「みんな蛾」http://www.jpmoth.org/Lymantriidae/Laelia_coenosa_sangaica.html)は顔が白いことでスゲオオドクガと区別される。またスゲには翅の色の2タイプが知られているが,交尾器は一致する。
 今回,翅に斑点のない純白のスゲが採集された。スゲのシノニムとされている「ヤマトスゲドクガ」とも異なり,今回の蛾は新種と見なされる。

 スゲドクガなんて沢山いる蛾なのだが。標本箱を同一種,しかも普通種で一杯にすることは眼力を養う御利益ばかりではなく,「ゴミの山からおかんのヘソクリ」を実現することもあるようだ。

 カバナミシャクは俗に「ゴミシャク」と呼び習わされ敬遠されているが,日本には100種ほど分布している。
 フジカバナミシャク Eupithecia fujisana (http://www.jpmoth.org/Geometridae/Larentiinae/Eupithecia_fujisana.html)と,ツシマカバナミシャク Eupithecia tsushimensis (http://www.jpmoth.org/Geometridae/Larentiinae/Eupithecia_tsushimensis.html)とは同一種であって,しかもこれらは Eupithecia groenblomi と同じであるという指摘が正しいらしい。「fujisan」も「tsushim」もシノニム入り。和名としてはフジカバナミシャクで行くのが適当か。
 さらにはツシマカバの♀とされていた個体は別種で,こちらは沿海州から報告されている蛾と同一種であるようだ。

 さすがカバナミシャクである。素人が同定すべき属ではない。わたしは“sp.”で。

 一旦分離されたオオナミフユシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Larentiinae/Operophtera_variabilis.html)とコナミフユナミシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Larentiinae/Operophtera_brunnea.html)とは同一種であって,「ナミスジフユナミシャク」に戻される見込み。

 単純に朗報。yyzz2がどれほど苦しんだかは拙ブログ09年02月13日記事参照。

 岐阜ではハンノキ喰いのウスバミスジエダシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Ennominae/Hypomecis_punctinalis_conferenda.html)がいて,他の食性のウスバミスジエダとのペアリングが上手くいかない。

 会場から,「ヒメミスジhttp://www.jpmoth.org/Geometridae/Ennominae/Hypomecis_kuriligena.html)では?」の声。岐阜にいてもおかしくないらしい。
 Hypomecis属もわたしには荷が重い属。

 クワトゲエダシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Ennominae/Apochima_excavata.html)の幼虫を飼育中。野外においては,この幼虫は大きな木にではなく,必ず1mほどの幼木を選んで付いている。

 大変だなあ。

 フトフタオビエダシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Ennominae/Ectropis_crepuscularia.html)は食性の違いから2種に分けられる可能性が考えられてきたが,DNA配列からそれが確定した。和名をどうしようかと考慮中。「スギノキエダシャク」あたりが候補。
 また,沖縄島でオオトビスジエダシャク(http://www.jpmoth.org/Geometridae/Ennominae/Ectropis_excellens.html)に似た蛾が採れているが,これは台湾やセイロンの種が入ってきたものらしい。

 ああ,Ectropis もわたしには難しすぎる。せめて亜種ならば…。

 キモンコヤガ(http://www.jpmoth.org/Noctuidae/Acontiinae+Eustrotiinae/Koyaga_numisma.html)は2種に分けられるのではないか。
 普通の個体。
キモンコヤガ標本
 別種と見なされる個体。
キモンコヤガsp標本

 会場からは疑問の声が上がる。もちろん初見の標本で判断するのは困難だろう。
 これは標本の小箱に一緒に入っていたクロモンコヤガ。
クロモンコヤガ標本
 自分の勉強用の撮影。

 トリバガ科は講談社『大図鑑』では記載56種,うち図板のあるもの45種。学研本の原稿では現在66種まで記述し,標本をあちこちから58種まで集めた。まだまだ新種や未記載種が出てくる可能性が高い。

 トリバガもわたしはスルーです。だって写真では全然全然同定できないんですもの。

 学研本の原稿進捗報告。

  • アツバは切っても切ってもどれもよく似ていて難解。
  • コケガに無記名種が5種ほどある。小さすぎて見逃されているらしい。
  • 沖縄にリンガの新種?

 などなど,アツバやコヤガは大変なことになってきた。とりあえず今回はどんどん名前を付けていく方針である。

 (ノД`)。ああ〜。なにか恐ろしいことに。((;゚Д゚)オレシラナイ。トーシロー ダモン。


 ここに取り上げたのはごく一部。3時間の予定は軽くオーバー。とんでもないなあ。
(この項続く。いつまで続くの? 前に回ってウナギに聞いてください)