「メイガ(冥蛾)」について。

 zatouさんから「冥蛾」についてのコメントがあった。今まで気にしていなかったので,おやおやと思って,ネットで検索すると虫偏付きの「螟蛾」も出てきた。こちらが本来? でも肝心の「冥(螟)蛾」の由来は見つからない。あれれ。


 記憶では,「冥」というのは要するに「(遠くの方にあって)暗い」ことであり,例えばニカメイガのように稲の茎の,光のささない芯に食い込んでいる様子を表現したものと思っていたが,せっかくの機会。
 というわけで調べ直し。調べ事は好き。


 漢字の意味なら,白川静『字統』を使うに決まっている。職場に置きっぱなしだったそれを引き上げてくる。


 まず「冥」から。

 幎冒(べきぼう)の形。幎冒は死者の面を覆う布である。(…)死霊を隔離するために,幎冒をもってその面を覆うた。この幎冒を施すことによって,幽冥のことが決するので,冥暗・昏冥の意となり,死者の処るところを冥界・冥土という。(…)暗黙のうちに心意の通ずることを冥契・冥約といい,深く思念することを冥想・冥感という。また,冥頑・冥昧は道理に暗い意。(…)
 <p.818>

 なるほどそんな感じの字の形である。利口になったような気持ちにさせてくれるのが,この辞典の最大の特徴である。「冥」の理解については「だいたいあってる」のが分かった。要するに「あちら側的な暗さ」のイメージであろう。


 「螟」も載っている。訓読みに「ずいむし・くきむし」とある。

 (…)〔説文〕13上に「蟲の穀葉を食ふものなり。吏,冥々にして法を犯すときは,即ち螟を生ず。虫に従ひ,冥に従ふ。冥は亦声(えきせい)なり(引用者註:冥の字の音と意味の両方が螟に用いられているということ)」という。穀葉は穀心の誤りで,この虫はいわゆる螟トク(引用者註:該当漢字見つからず)の属。
 <p.820>

 心=芯だから,害虫としての重要性から見てなるほどメイガに間違いないだろう。それはいいのだが,つまり,暗愚(冥々)な役人が違法行為を行う時に発生する虫だから「螟蛾」であるという説明である。
 「茎の中が暗いから」ではなさそうだ。間違って覚えていた模様。でも普通はこんなこと知らないし,まして思いつかないぞ。


 メイガからは離れていくが,面白いので引用を続ける。平気である。場外乱闘が怖くてブログなんて書いてられるものか。螟トクの説明。

〔説文〕の次条に[虫貸](とく)をあげ,「蟲の苗葉を食ふものなり」とし,その正字が貸に従うのは,吏が高利をもって人民を苦しめると,その虫が生ずるのであるという。秋の虫害は,すべて姦吏・貪吏の悪行の結果であるというのは,文字学の限界を超えた解釈であるが,後漢以来「災異策免」のことが行なわれ,重大な災異が生じたとき,三公・大臣が責任を辞職する慣行があった。(…)
 <p.820>

 いかにも古代中国的な,人間社会と自然とをパラレルにして捉えていく自然観である。
 そういえば,現代の日本だって伝染病や災害のたびに「人災」の面が掘り起こされて責任者が辞職したり馘首されたりしている。やっていることはあまり変わらない。
 古代において日本人が中国文化を受容していった時に精神の基底部分に刷り込まれた世界観が,今でも発動しているのかもしれない。


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 疲労がさぱーり抜けず。灯火廻りどころか帰宅するなりバッタリです。眼がかすんでピンを合わせられる気がしないし。