「みちのく会@秋田」私的レポ(10)。2月28日午前。「話題提供」前半戦。
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(承前)
会場の人々の意識が「幻蛾」によって深層まで蛾まみれになったところで,「話題提供」が始まる。
こちらは昨日の「一人一話」よりも専門性が高くなるのが例年。それだけに集中して傾聴せねばならないのだが,こちらは朝のトランキライザーで頭がぼよよーんである。
メモの範囲内で。
- 日本人はタイプ標本を大事にしない傾向があり,憂慮すべきである。
- 日本の博物館の受け入れに問題あり。
- 戦争で失われた標本は仕方ないにせよ,戦後の記載モノもないことがしばしば。
- 例えば,O氏によるコケガなどのホロタイプ(種の原器とされる標本)がない。ご子息によれば,現在チョウの標本は残っているが,蛾のそれはないとのこと。北大に寄贈されてもおらず,結論としては行方不明である。
- 「不明」なのでネオタイプ(ホロタイプが失われている場合の新原器標本)の指定もできない。
- タイプの所在について,外国から問い合わせがあることもあり,困る。
- また,N氏のシャチホコガのタイプについても,N氏没後にK氏が回収したが,半数ほどは虫食いで失われていた。
- 科学博物館の移転にあたって,ホロタイプの整理・打ち込みを行った。まだまだ「あるのかないのか分からない」ものが沢山ある。
- チョウのタイプ標本はまだまだ埋もれている可能性大。
- このアオスジアゲハは赤ラベルがついているのでタイプ標本であるはずだが,何のタイプ(亜種?)か分からない。原記載も不明である。
- ぼろぼろのルソンカラスアゲハのホロタイプ。今回出てきた。
- 従来,「展翅し直そうとして熱湯注射で軟化を試みたところ,手を滑らして壊してしまったので捨てた」とされていた。
- 今回,原記載のホロタイプの写真および採集者に確認したところ,失われたはずのものに間違いないとのこと。
- ところがラベルがない。仕方ないのでこちらで赤ラベルを作った。
- ラベルの色には実は規定がない。ある人はホロタイプのラベルを途中から「青」に変えている。さらに現在は「緑」を用いているそうである。
- 後世の研究者に混乱を招かねばよいのだが。
- 赤ラベルだがパラタイプ(原記載で示されているが,ホロタイプには指定されなかった標本)だった,あるいはホロタイプが2つ出てきたケース。(右下隅。どっちだったかメモが追いついていない)。
- かつてはしばしば,パラタイプが写真に使われていた。交尾器についても,ホロタイプの腹を切ることがためらわれたために,パラタイプのものを図示用に使うことがあった。
- ホロタイプなのだが,原記載とラベルとで名前が異なっているケース。
- I氏によるクロスズメの新種。
- この標本は記載文を読むとパラタイプである。本当のホロタイプは大英博物館にあるはず。
- 命名者に確認すると記憶がないという。「未記載」で処理。
- 現在の命名規約ではホロタイプの保管場所を明記することが義務づけられている。
何だかいろいろなことになっている。昔は門外不出の標本さえあったという。家元制度の感覚なのかな。
知識は開かれたものであるべきに決まっている。博物館や惑星探査に使われるのなら,増税に賛成してもいいのだけどね。
分類をいじり回したい人が沢山いるのである。
わたしのような絵合わせシロートは種が細分化すると困る。同定できない。こちらはエゾマイマイやらスギノキエダシャクをまだ消化できていないのである。
それにしても,アルテミスのタイプ標本がしなびたキャベツみたいな様子だったのは勉強になった。
- 「みんな蛾」は世界で見られていて,キハラゴマダラヒトリについて,ロシアの研究者からウルティカエ種が混じっているとのクレームがついた。
- ウルティカエ種は触角の櫛歯が短く,バルバ(交尾器)も異なっている。
- 国後島で採れており,北海道・本州にもいるのだという。
- というわけで,皆さんのキハラゴマダラヒトリの標本を確認していただきたい。
これは現在,メールで情報交換が継続中。ウルティカエ種はまだ出てきていない模様。
なるほどこういうことがあるから,専門家は標本箱を同じ種で一杯にしたりするのである。
わたしはキハラゴマダラヒトリ自体未見である。アカハラばかりだよ。
ナンパ画像があるが,もちろん割愛。
(この項続く)