リンネ『自然の体系』昆虫編について(1/ )。
というわけで,前回のナナフシ探しでもって,またもやリンネの世界に引きずり込まれることになった。orz。
年末年始の連休なので,家事以外は1日中机に向かっていることができる。どんどん「虫」が自分の中で実体性を失って抽象的概念になっていくが,まあ仕方ない。もともとフィールド向きじゃないらしいよ。
なんやかんやで,結局わたしは何をやっても,いわゆる“Eighteen-Centurist”の圏内に引き戻されてしまう。丸山宗利『アリの巣をめぐる冒険』では「図鑑の知識」→「実体としての虫の採集」への移行が語られているが,その点では,わたしは本来の虫好きとは異なるのだろう。そのまま哲学科へ進学した人間だし。tangible なものにはなかなか精神がなじまないのだと思う。
というわけで,はじめに文献リスト。
- Biodiversity Heritage Library;Caroli Linnaei,「Systema naturae per regna tria naturae :secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis.」(自然の3界による自然の体系。綱・目・属・種に従い,形質・相違・シノニム・産地を付す),第10版,1758〜1759。
- メインテクスト。
- 第12版,1766〜1767。
- こちらは比較用。
主に参考する文献。
- 千葉県立中央博物館,リンネと博物学(増補改訂);文一総合出版,2008
- 初版およびその訳文がある。
- J.Barbut,Les genres des insectes de Linné ;1781;http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/36519
- ※第12版の英・仏のおおよその訳がなされている。図版があるので紹介の予定。
ところで,わたしのラテン語力はヘロヘロでインチキなので悪質な誤読があるかもしれない。判明次第随時訂正していきたい。
「第5綱 INSCTA」(p.339)の頭から読んでいってもいいのだけれども,せっかくなのでインセクタの内訳から始めた方が取っつきやすいと思う。
段のズレは脳内で修正してください。
(p.341)
目(もく)(1)を翅によって区別したい。
┌上翅┌全体が殻状(2) − − − 鞘翅目(Coleoptera) 1.
翅が4枚┤ └半分が殻状(3) − − − 半翅目(Haemiptera) 2.
└全翅┌鱗で瓦状に覆われる − 鱗翅目(Lepidoptera) 3.
└膜状になっている
尻┌針がない(4) 脈翅目(Neuroptera) 4.
└針を持つ 膜翅目(Hymenoptera) 5.
翅が2枚,後部に平均棍 − − − 双翅目(Diptera) − 6.
翅が0枚,すなわち翅と鞘翅を欠く − − 無翅目(Aptera) − 7.
(1)12版では「虫の目」。
(2)12版では「殻状,真っ直ぐに合わされている」。
(3)12版では「半分が殻状,重ね合わされている」。
(4)直訳すれば「去勢されている」。12版では「武装していない」。
現代から見ればずいぶん少ない。バッタのような直翅系は鞘翅に,トンボなんかは脈翅に回っている。でも分類とはものの見方の反映なのだから,アナクロニズムに陥ってはならない。
「無翅目」というのがどうも怪しいのだが,クモやサソリ,ムカデヤスデゲジダンゴムシばかりではなく,カニエビヤドカリミジンコまで配置されている。
要するにリンネの「INSECTA」というのは節足動物のことであって,日本語の「虫(蟲)」に該当する概念のようだ。訳出においては「昆虫綱」というよりも「蟲類綱」とするのがより妥当かもしれない。
その場合,カニが蟲かというと……蟹は虫偏だからセーフである。
ならば蛇や蜥蜴はどうかと言えば,トカゲはわたしの主観では虫でもOKなんだけどね(オオトカゲなんかは大蟲である)。リンネはさすがに違うと考えている。また,「虫けら」でしかないミミズやナメクジも「INSECTA」ではなく「VERMES(蠕虫)」に分けられていて,実はリンネの「蟲」概念の外延はなんだか結構小さいのである。
やっぱり「昆虫」でいいや。
画像は,Sulzer,Die Kennzeichen der Insekten,1761 から。Aptera です。
なるほど Aptera していますねえ。虫けらです。
本来ならばページを戻って,この「昆虫(蟲)綱」の概説にすすむところなのだけど,その前にちょっと。
せっかくだから,次回は『自然の体系』初版の INSCTA 分類を見ておきましょう。