リンネ『自然の体系』昆虫編について(2/ )。Blatta(ゴキブリ)。
さて,予定変更で『Systema Naturae』の初版へ突入します。
以下,使用テクストは,
千葉県立中央博物館,リンネと博物学 増補改訂,pp.3〜38;文一総合出版,2008。 ただし,この本では,分類表における属の解説部分が訳出されていない。確かに科学的意義はほとんどないだろうねえ。プロの科学史家か,わたしのような文系虫屋の縄張りである。
初版は1735年発行。12ページ。構成は
- 自然の3界についての所見
- 鉱物界〔表〕
- 鉱物界についての所見
- 〔植物の〕性の体系の検索
- 植物界〔表〕
- 植物界についての所見
- 動物界についての所見
- 動物界〔表〕
(Wikipedia;File:Linnaeus - Regnum Animale (1735).png で読める程度まで拡大できる)
(誤解釈を指摘してくだされば幸いです)
- 方法論
(順序は使用テクストのママ)
というわけで,動物の分類表から「昆虫」を。〔 〕はyyzz2による訳註。
5。昆虫
- 体は骨〔として働く〕殻が皮膚のように覆う。頭は触角を備える。
昆虫は,鞘翅目(COLEOPTERA),脈翅目(ANGIOPTERA)半翅目(HEMIPTERA),無翅目(APTERA)の4目に分けられる。
ここではアンギロプテラを「脈翅」と訳したが,現「NEUROPTERA」とは異なる。植物でいえば“neuro-は「葉脈」,“angio-”は「導管」。
まず,鞘翅目から。
鞘翅目
- 翅は2枚の鞘翅に覆われる。
リンネは22属を配している。
属の特徴は3つに別れる。まず,その1。
- §.外観により容易に区別されるもの。
このカテには9属。
(1)
- Blatta.
- 鞘翅は重なり合っている。翅〔下翅〕を持たない。
- 触角は途中で切れる。
- Scarab.〔Scarabaeus〕 tardipes.〔不詳〕
- Blatta foetida.〔不詳〕
Blatta は通常はゴキブリ。ed.10でも鞘翅分類だが,12では半翅へと移される。とはいえ,説明文を読む限りではこのed.1のブラッタがゴキブリかどうかは疑わしい。「スカラベ」が上げられていたりする。
ところで,そもそもラテン語ではコガネムシ系の甲虫らしい甲虫のことを「スカラベ」と呼ぶものらしい。カミキリムシなんかは立派にスカラベである。なるほど現コガネムシ科は「Scarabaeidae」であって,スカラベ=フンコロガシというのが視野狭窄なのである。
でもゴキブリは見るからにコガネムシじゃないと思う(黄金虫は金持ちだの歌はゴキブリだが)。
表に関する「所見」で,リンネは
例えば,フィンランドとロシアに見られる Blatta[ゴキブリの仲間]は,あらゆる種類の布のみならず,パンを食べ〔略〕。
(同上,p.27)
と述べている。北ヨーロッパのゴキブリについては調べきれなかったが,他の甲虫が混ざり込んでいる可能性がありそうである。今の北海道にゴキブリがいないぐらいだから,昔の北欧にはほとんどいなかっただろう(現在,いたとしてもごく少ないようだ。これも北海道と同じ)。
だからリンネは標本でしか見ておらず,「触角が切れている(trunctae)」というのも,きっと標本のそれが折れていたのではないかと思う。
上記のスウェーデン虫は伝聞のみだとにらんでいる。おそらく現地で俗に「ゴキブリ」と呼んでいるだけの非なるスカラベ系甲虫だろう。
疲れた。わたしが教えている受験生連中よりも勉強しているんじゃなかろうか。
次はゲンゴロウから。