生存報告。近況やらアサマシジミ保護のこととか。

 とりあえず生きている以上ではないのけれども,なんだか生きている。頭は少しずつ動くようになってきているけれども,もう「まともな文章」は全然書けなくなってしまったように思える。「文系虫屋」としては致命的である。
 どこまでリハビリできるかなあ。
 

近況

 昨年は7月半ばからクシヒゲシマメイガが大量にコンビニの窓に飛来したのだが,今年は全く見ていない。
 モンシロドクガは出てきた。窓にせっせと産卵している。これは例年通り。
 
 同僚から数学の時間に教室へヘビトンボが入ってきたのとの報。夏だねえ。生徒は高校3年にもなっているくせにヘビトンボをほとんど知らないそうである。うーん。
 身近な昆虫については当然知っているべきであって,おかげさまでわたしは「Hymenoptera と Diptera」の違いを歴史の授業をつぶして解説するはめになったりする。
 
 休み時間。清掃の準備をしていると男子生徒が近づいてきて,携帯の写真を見せて何の虫かと聞いてくる。マダラカマドウマである。斜め左上からよく撮れている。向学心(好奇心)があるのはいいことだが,カマドウマの写メを撮ったりしているようでは女の子にモテないのではないかと不安になる。恋人ができたら彼女にカマドウマについて教えてやってください。これはわたしに虫について教わった者の義務だからね。不幸の手紙みたいなもの。
 

アサマシジミ保護講演会

 職場で講演会。丸瀬布昆虫生態館学芸員の喜田和孝さんの「アサマシジミ」の保護の話。遠軽でも分布地区がどんどん減ってきているとのこと。
 公演後,さっそく質問。専門家がいるのに質問をしないのは大変な機会損失だと思っている。

 yyzz2:町内で以前はいた地区で姿を消したのはどうしてなのでしょう? 開発?
 喜田さん:採集の影響もあるでしょうけれども,環境の変化が主原因だと思います。中途半端な草原を好むチョウなので,そういう草原は放置しておくとやがて林になってしまって生息に不適な環境になるのです。なんらかの手入れが入ったり,火事や大水で森林が破壊されて生息が可能になります。
 yyzz2:単に生息地を囲い込めばいいというものではないと。不安定な環境でしか暮らせないチョウなのですね。たいへんだなあ。ありがとうございました。

 このやりとりでもって,講演で述べていた「一般の人でもできる保護活動」として,「とにかく食草(ナンテンハギ)を植えよう」というのに合点がいった。チョウが上手く来るかどうかはともかく十分な受け皿をあらかじめ存在させておかないと,環境変化に対応させられないのだろう。
 
 それにしても,蛾に比べるとチョウは恵まれているの感。蛾なんかはまだ未記載のそれが開発によって人知れずどんどん絶滅しているにちがいない。蛾は同定がしばしば難しいし,食草もたいてい分からないし,そもそも「町おこし」と全然連動しそうもないし。遠軽はていねいに調べれば,相当に面白い蛾相だと思うのだけど(わたしはやりません)*1
 アサマシジミ北海道亜種 Lycaeides subsolanus iburiensis(りかえいーです・すぶそーらーぬす・いぶりえーんしす)について少し学名遊びをしておこうか。
 この属の分類についてはタイプ標本に問題があっていろいろやっかいらしい(参照)が,とりあえずEOLではこの属名になっている。
 属名の由来は,ギリシア語の,Lykaios + -ides(〜の子,子孫)。リュカイオスというのは,高津春繁『ギリシアローマ神話辞典』によれば

アルカディアの同名の山に祭られたゼウスの呼称。この山ではリュカイア祭がゼウス・リュカイオスのために催された。(p.301)

とのこと。「ゼウスの子」という意味になるんだね。チョウチョはリンネ以来こういう盛った命名が多い。
 種小名は例によってラテン語そのまま。「sub + sol +接尾辞」だから直訳的には「太陽の下の」。実際の命名意図は産地を示す「東の」だろう。でも前者の解釈の方が格好よい。亜種名は「胆振産の」。ゼウスの末裔もずいぶん遠くへ来てしまったものである。
 
 Lycaeides subsolanus iburiensisはレッドリストで<EN>。苫小牧のツマグロマキバサシガメ<NT>はどうなったのだろう。きっと,もう出会うことはない。
 
 ついでに思い出した。やっぱり丸瀬布は,道の駅の夏期間のライトアップをやめるべきである。生態系への負荷が大きいし,電気代だってアレだろうし,(以前ブログにうpしたような)蛾の死骸が観光に好印象を与えるとは思えないな。
 
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*1:後記:喜田さんからのメールでは,チョウの保護を起点にして地域の多様な種を保全するのが目指すところだそうである。なるほど。