Moffet『昆虫劇場 Insectorum theatrum』第2巻における無翅昆虫の体系図。

 というわけで Moore と Moffet を平行して調べている。片方に集中するとしんどいからである。
 
 例の Moffet の『昆虫劇場』は第1巻がミツバチから始まって有翅の虫,第2巻が芋虫毛虫(「キャタピラー」である)からハリガネムシまで無翅の虫を扱っている。
 第2巻序文に無翅虫の体系図が載っている。今回はこれを紹介。

 以前に書いたように,この時代はまだ変態する昆虫の成虫・幼虫は「別種」として分類される。形態が著しく異なっているからである。
 分類というのは,ものの見方の問題であって,極端なことを言えばあの『言葉と物』の冒頭のようであってもかまわない。チョウチョとアオムシが別のものに見えたのだから,そう分類するのが自然だっただけ。わたしはこの時代に相当に慣れてきて,この両者を別種にカテゴライズするのに違和感がない。

 モフェットはまず,陸棲と水棲に分ける。ここにも現代人と異なるまなざしがある。楽しい。
 

  • 翅のないもののうち,昆虫であるもの。
    • 陸棲であるか
      • empoda(有脚),歩行する種類。
        • 多くの脚で歩く。芋虫毛虫,スフォンディラ(sphondila,嫌な臭いのする虫。『昆虫劇場』では芋虫の一種だと考えている),スタフィリヌス(staphlinus,不詳。『昆虫劇場』の図版を見るとモフェットはこれだと思っているらしい。でもこれはどうしたってシャチホコガの幼虫である。図版参照),ワラジムシの仲間。

少し拡大
http://www.biodiversitylibrary.org/item/123182#page/228/mode/1up

        • 八脚で。サソリとクモ。
        • 六脚で。アントレヌス(Anthrenus,不詳),ホタル,雌のツチハンミョウ。また,材木,樹木,茎,果実,食物,野菜,寝室,体液(おそらくシラミ)の蛆虫。
      • apoda(無脚)。オリパ(Oripa,氷の中に涌く蛆と以外不詳),地面(と)腸のミミズ(後者はカイチュウ)。
    • 水棲であるか
      • 脚のある種類
        • 六脚で泳ぐ。エビ(図版を見るといろいろな幼虫類である),沼サソリつまりノトネクトゥス(Notonectus,マツモムシのこと)。

少し拡大
http://www.biodiversitylibrary.org/item/123182#page/340/mode/1up

        • 非常に多くの脚。海のムカデ(不詳),多脚のエビ。
      • 脚なし。ヒル,毛のような蛆虫(おそらくハリガネムシ)。

 
 以下は考察というよりも,当て推量。
 孫引きだが,同時代のアルドロヴァンディでは次のような体系であるという。

昆虫 → 水棲か陸棲か → 脚の数 → 有翅か無翅か

 モフェットとの違いは翅が最後にきていること。モフェットは1巻を有翅昆虫,2巻を無翅昆虫にに分けているのだから,一応は「翅の数」を最初の分岐に置いているかに見える。でも分からない。たまたま本の章立ての関係かもしれない。1・2巻の別を取り払ってもう一度まとめ直したなら,案外アルドロヴァンディと同じになったかもしれない。
 根本的に,彼らの頭の中では昆虫は「系統樹」を形成していない可能性がある。分ける要素が生息地・脚・翅の3つあるというだけで,順序の感覚はどうも感じられない。
 進化の系統樹が当たり前だったわたしには新鮮である。だから勉強は面白い。
 当時だって「自然の階梯・ヒエラルキア」の概念はあったはずだが,昆虫は,階梯の「(アリストテレスのいう)不完全な生物」の袋に単純にごたごたと投げ込まれていたのではないか。