昆虫学史

トプセル(2)。『四足獣誌』のねらい。

> トプセル(1)。エドワード・トプセル(Topsell),年譜。 https://biodiversitylibrary.org/page/44211994 さて,それで,トプセルである。読んでいくのは『四足獣誌』の「献辞」。 当時の本には序文代わりに王侯貴族や高位聖職者への献辞がつく。箔付…

トプセル(1)。エドワード・トプセル(Topsell),年譜。

トプセルと言っても,科学史業界か怪物絵マニアにしかなじみがなさそうだ。 イギリス17世紀初頭の牧師。スイスの博物学者ゲスナーなど他の学者のほぼパクリではあるが(当時は,真理は純粋に普遍的なものである),目を奪う挿画を多く載せた*1動物図鑑本『…

Zaranga属更新。ウォーターハウスの図鑑。

久しぶりのブログ。生きていたのか死んでいたのか。自分ではよく分からない期間が続いていた。表向きは生きていたようである。でも油断はできない。 11月後半から精神の糸が切れていて,精神の粒のようなものがブラウン運動的な状態にあったようだ。冬の前…

『TINAE』の,シャチホコガ科の亜科分類の最新情報が来たよ。

というわけで蛾類学会から『TINEA』の最新刊が届いた。冬の「みちのく会」で予告があった,シャチホコガ科の分子系統分析のまとめである。 Hideki Kobayasi and Masaru Nonaka, 2016, TINEA 23, Supplement 1 。 シャチホコガ科の324種の脚をもいでDNA…

『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(5) 蝶蛾の名称について。

さて,これで,ようやくモフェットに入ることができる。 正式な本のタイトルは 『昆虫すなわち,より少さな動物の劇場。かつて,エドワード=ウォットン,コンラード=ゲスナー,トマス=ペニーから始められ,最終的にロンドンのトマス=モフェットの尽力によっ…

『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(4) Index。

迷走しているのだけれども,考えなしに行き当たりばったり調べごとをしているので仕方ない。モフェット(Thomas Moffet 1553-1604)*1の『昆虫の劇場』(1634,死後出版)については発刊まで波瀾万丈の経緯があって,しかも複数の資料提供者たち(Wotton,Ge…

番外編。中世におけるワニチドリ伝説の発展について。(4/4)

(1)・(2)・(3) さて,ワニチドリの続き。次は1240年。Bartholomeus Anglicus の『諸物の特性について De proprietatibus rerum』。良きにつけ悪しきにつけ,ルネサンスで広く用いられた百科事典的自然誌本といってよい。 バルトロメウス=アングリク…

番外編。中世におけるワニチドリ伝説の発展について(3)。

(1)・(2) 相変わらず,ワニの歯を掃除するチドリの話の変遷史が続く。 本質的に行き当たりばったりでブログを書いているので,復習しながらじゃないと自分も分からなくなる。 前5C:ヘロドトス これがおそらく記載としてはプロト。ワニの習性とトロ…

番外編。中世におけるワニチドリ伝説の発展について(2)。

(1)のつづき。脱線中。ワニの歯を掃除するチドリの話の変遷史である。 ヘロドトス → アリストテレス → 大プリニウスからそして,といったバトンリレーのただ中。 次走者のガイウス・ユリウス・ソリヌス(Gaius Julius Solinus)は3世紀ローマの文法家,…

番外編。中世におけるワニチドリ伝説の発展について(1)。

3泊4日の卓球高校生引率@網走がやっと終わった。1泊2食で4千8百円。食事がかなり良い。昼間は高校生のわあわあ言う声とピンポン音の中で,Raven『English Naturalists from Neckam to Ray』を居眠りしながら読み進める。English Naturalists from Nec…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(追記・メモ2/2)

本編(1)・追記(1) 『インドの鱗翅目 Lepidoptera Indica』第7巻,p.119の註は,前回書いたように,スウィンホーによる引き継ぎの挨拶である。 ムーアの業績賛美や人柄の回顧については本項ではカット。わたしにとっては優先順位が高くない。思想と人…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(追記・メモ1/2)

本編(1) すじ肉を煮込んだり,コンピュータ将棋をネットで見ていたりして原稿書きができなかった。 いろいろなことは明日。 ムーア『Lepidoptera Indica』の補足。 やっと見つけた。『Lepidoptera Indica』は第6巻まででムーアが死に,第7巻から はChar…

『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(3)大プリニウスにおける蝶蛾の発生。

(1)・(2) 昆虫研究史は,前4世紀のアリストテレスから1世紀の大プリニウスへと,大プリニウスから16世紀のゲスナーへと三段跳びをする。間がずいぶんとあいている。この隙間隙間には光度の落ちる星々がなかったのではないのだろうが,詳細な史的研…

『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(2)アリストテレスの昆虫論。

(1) 昆虫学は古代ギリシア最大の哲学者,アリストテレスをもって嚆矢とする。 アリストテレス以前の人間は,虫になどミツバチとカイコを除いて関心を持たなかった。まあ当然だね。アリストテレスは森羅万象を研究した人物であって,生命だの発生だのの研…

『Theatrum Insectorum』の「蝶蛾」を読む。(1)前置き。

さて,うん,これからまた長丁場。 しばらくは前置きが続くよ。人生の3分の2は前置きや準備だけに費やされ,そのほとんどが実りのないものに終わることがこの年になってつくづく分かったのはさておき。 − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − − −…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その20/20)

(1) ・・・ (19) ムーアについては,かつて記したように,日本ではほとんど知られていない。19世紀の博物学に関する翻訳書が幾冊も出ているが,そこにムーアの名前が現れることはない。この事情は海外でも同じらしく,彼のことに触れている本がさっ…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その19)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13)・(14)・(15)・(16)・(17)・(18) というわけで,「Lepidoptera Indica」の記載リストの貼り直し。こんなに「L_I」に…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その18)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13)・(14)・(15)・(16)・(17) 『Lepidopera Indica』はムーアの死によって中断された本である。ムーアが6巻まで。7〜10…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その17)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13)・(14)・(15)・(16) ずいぶんのご無沙汰でした。だって心身ボロボロだし,仕事は泣きそうなほどだし。 資料読みは少しずつ続…

「トゲシャクトリ」調査中。

ごめんなさい。体調ダメ。職場早退したし。 明治31年の文献に「トゲシャクトリ(Nyssia ssp.)」という記述が出てきて,これがクワトゲエダシャク。「Nissia」から調べ直し中。1901年のカタログではすでに属名が「Zamacra」に変わっている。こちらが当…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その16)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13)・(14)・(15) 27.F.A.de Roëpstorff夫人(Mrs. Frederick Adolph de Roëpstorff) →デンマーク人なので名前の発音が分から…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その15)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13)・(14) 25.J.ウッド-メイソン博士,カルカッタインド博物館副館長(Dr. James Wood-Mason) →1846-1893。James Wood-Mason - Wiki…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その14)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12)・(13) さてプロが続く。 24.J.アンダーソン博士,カルカッタインド博物館長(Dr. John Anderson) →1833-1900。珍しくWikipediaの日本語記…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その13)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11)・(12) 20.J.ショート博士(Dr. J. Shortt) →おそらく,『南インドの林業 Forestry in southern India』1884,の編者である John Shortt(1839〜1903)…

Moffet『昆虫劇場 Insectorum theatrum』第2巻における無翅昆虫の体系図。

というわけで Moore と Moffet を平行して調べている。片方に集中するとしんどいからである。 例の Moffet の『昆虫劇場』は第1巻がミツバチから始まって有翅の虫,第2巻が芋虫毛虫(「キャタピラー」である)からハリガネムシまで無翅の虫を扱っている。 …

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その12)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10)・(11) 15.H.H.G.ゴッドウィン-オースティン少佐(Lt.-Col. Henry Haversham Godwin-Austen) →「Henry Haversham Godwin-Austen - Wikipedia」によれば,183…

Moffet『昆虫劇場 Insectorum theatrum』の「Anthrenus」について(2/2)

(承前) ここからが本題である。 Anthreri Iconem vobis offero, quem Graeci etiam anthrênon apteron vocarunt. わたしは諸君にアントレノスの図版を示す。これをギリシア人は「翅のない蜂(アントレーノン・アプテロン)」とも呼んだ。 http://www.biodi…

Moffet『昆虫劇場 Insectorum theatrum』の「Anthrenus」について(1/2)

twitterでのわたしのつぶやきは「調べ事の進捗・更新の報告」か「身心の具合が悪い」かどちらかなので,およそ読まれるに値しない。とはいえ,その2つがわたしの生活の実質のすべてなので仕方ない。 先日何の気なしに画像を貼った。17世紀の虫本の,なん…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その11)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9)・(10) 見やすくするために様式を少し変更した。ただし「引用囲い」中の文は『インドの鱗翅目』からの正確な訳文ではなく,任意の要約の場合がある。 11.F.デイ博士(Dr. F…

手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その10)

(1)・(2)・(3)・(4)・(5)・(6)・(7)・(8)・(9) (承前) 7.T.ハットン大尉(Capt. Thomas Hatton) →1806〜1875。『ほ乳類の名祖事典(The Eponym Dictionary of Mammals)」,p.202,によれば,第一次アフガン戦争(1839)…