番外編。中世におけるワニチドリ伝説の発展について(2)。

 (1)のつづき。脱線中。ワニの歯を掃除するチドリの話の変遷史である。
 ヘロドトス → アリストテレス → 大プリニウスからそして,といったバトンリレーのただ中。
 次走者のガイウス・ユリウス・ソリヌス(Gaius Julius Solinus)は3世紀ローマの文法家,なのだが,著作としては『De mirabilibus mundi (世界の驚異)』(またのタイトル『Polyhistor(博識家』)で有名。内容はほぼ大プリニウスからの引き写しであるという。一応,原文同士を比べてみたが単語が相当入れ替わっていて,単純なパクリではない。
 Solinus, DE MIRABILIBUS MUNDI, XXXII, 25, The Miscellany The Latin Library The Classics Page から。
 奪格の用法の読み取りに自身がないのだが,おおよそこんな意味。

ストロフィロス(Strophilos)というごく小さな鳥がいる。彼は(ワニの)食物の残りを欲するとき,この獣の口を少しずつ突っつき,それから,用心深く心地よいようにあちこちくすぐって喉の中と進んでいく。これに気づいたイクネウモン(マングース)は,獣に入り込み,獣を傷つけ生きたまま内臓をむさぼって出てくる。

http://www.thelatinlibrary.com/solinus5.html

 ソリヌスの記述はかなり簡潔である。簡潔すぎてつまらないらしく,16世紀の英訳ではネタ元の大プリニウスから記述を補って水増ししたりしている。そのくらいのことは昔は平気である。今だって註をつけたくなくて本文に説明を組み込んでしまう翻訳があるらしい。
 なお,英訳では「ichneumon」(エジプトマングース)を「Enhydre」と訳して,「水ネズミの一種」と割り註をしている。ユーラシアカワウソのつもりか? ちなみに現在は「enhydra」ってラッコである。
 
 次のランナーは Neckam。
 
 (続く)