手元の資料で調べよう。フレデリック・ムーア。(その18)
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『Lepidopera Indica』はムーアの死によって中断された本である。ムーアが6巻まで。7〜10巻は前記のチャールズ・スウィンホーがムーアの草稿をもとに書いたことになっている。
ただし,スウィンホーがムーアをそのまま引き写していないことは,7巻以降には,交尾器の写真や頭部や翅脈の拡大図が(少し)あることから推測される(1〜6巻は記述文のみ)。
v.7,p.225 v.8,p.27
だから,正しくはムーアとスウィンホーの「共著」と言うことになるのだろう。
フルストルファーはムーアの死亡記事に次のように書いている。
しかし数年前から,清書されている完成稿が存在しており,蝶ばかりではなく,インドの蛾類全体を含み,取り扱っている。そのため,後継者はムーアの仕事を継続して終わらせるのは容易である。
ところが,このスウィンホー引き継ぎの『Lepidoptera Indica』はRhopalocera(蝶)でお終い。ヘテロ(蛾)には手が付けられなかった。その意味ではこの著作は未完である。残っているのは,インドの蝶のみのモノグラフ。(属までの分類リストをExcelで作った(ミス!後日差し替えます)。関心のある向きはダウンロードしてほしい)。蛾屋のわたしとしては深く遺憾とするところである。
フルストルファーの話がガセだったか,収拾が付かなくて蛾が没になった挙げ句それきり分からなくなったかどちらか。個人的には後者で,ムーアの蛾の草稿がどこかの好事家の所に眠っていると考えた方が面白い。そのうち出てくるよ。
ムーアが生きていればどう考えたかは分からない。
本としては蝶だけで人々は満足したのかもしれない。蛾の需要は今も昔も高くない。協力者のほとんどは自分の採った蝶を本に記載して欲しくてムーアに送りつけているのである(『セイロンの鱗翅目』の項参照)。蝶好きのスポンサーにとって,蝶の記載が何よりも優先事項なのだったのだろう。蛾はいいや,ということ。
傍証。『Lepidopera Indica』の冒頭部はこう。
この目に含まれる昆虫は,2つの亜目に分けられる。すなわち,Rhopaloceraつまり蝶と,Heteroceraつまり蛾である。2つの亜目の区別は第一に触角の構造に基礎を置く。(略) 蝶は,目のうちで最高次のグループを形作っている。(p.1)(強調引用者)
ああ,そうなんだなあ。やっぱり蝶が大事。蛾は低次でアトマワシ。
ロパロとヘテロの区別は無意味だというのが現代の分類学の結論だというが,「蝶」を上位に置きたがる性向はやっぱり根が深い。人間が昼行性の動物だからなのかもしれない。
今は蝶のグループを「ミクロ蛾」の一部に位置づけようという研究すらあるほどである。蝶だの蛾だの区別はもう時代遅れになりつつある。わたしはまだ一応蛾に特化しているけどさ。
次回は分類の話と蝶の画像で。