第47回「みくに会」非公式レポート(1)。7月1日前半戦。

 いやいや,生の蛾からはね,すっかり遠ざかってるからねえ。ご覧の通り。わたしが全然場違いなのは,それは分かっていたのだけどさあ。7月1日から。採集会である「みくに会」に参加してきた。採集なんてしないけどさ。
 
 いままで,報告・談話会である「みちのく会」には毎年参加してきたのだが,「みくに会」は≪日本蛾類学会「公式採集会」≫である。わたしはといえばネット系文献蛾屋なのだが,一応は会員だからいいよね。多様性はどんな生態系にも不可欠であって,わたしを排斥するような組織はたちまち崩壊するに違いない。
 カメラすら持ってきていないが,そういう訳で平気である。
 
 この「みくに会」。北海道開催は初めてとのこと。比較的近所である。午後の仕事は投げ出した。生徒の5時間目の倫理は自習になった。喜んでいるに違いない。目指すは上川の愛山渓温泉なる大雪山系の一部。13時15分出発。
 
 天候は絶好のドライブ日和。わたしは長時間の運転ができない。というのも,途中でメンタルがおかしくなってパニック状態のなか路外に転落する可能性が高いからである。その程度の人間である。苫小牧から引き上げてきたばかりの妻に運転させた。彼女もお世辞にも不安定だがわたしよりは相対的に安全である。幸い,嫌がらなかった。
 
 北見峠はやっぱり無駄にうねっているし,東雲のローソンは無断でつぶれていて昼食を逃すし,山道は太ったつがいのキジバトの遊歩道になっている。なんだかなあ。
 画像がなくてつまらないのでYouTubeから。

 
 思ったより遠い遠い遠い。呪いの言葉ばかりが口をつく。わたしの力ではとうてい行き着かないだろう。
 途中,完全防備で捕虫網を持った人とすれ違う。先発隊の蛾屋さん。驚く妻に「これはこんなものなんだ」と意味不明な解説をする。
 目的地の「愛山渓倶楽部」に着いた時には2時間半が経過していた。
 
 「愛山渓倶楽部」は温泉宿というよりも,温泉付「研修所」といったたたずまい。昔の国鉄の窓口みたいなのがカウンター。その前にお菓子とか土産物の箱とかが漠然と積んであって,その向こうが食堂になっている。
 
 もうすでにかなりの参加者が到着している。前日から泊まっている向きも少なくないらしい。奥のロビーの机が受け付け。ブログでよく知っている幹事の蛾LOVEさん川北さんとはリアルでは初対面。すぐにわかった。二人とも黒縁メガネの壮年。すでにして蛾界の重鎮のオーラをまき散らしていた(あるいはマナを胎蔵していた)。二卵性双生児だと言われれば信じる人がいるかもしれないし,しかもポテチを食べていた。
 
 「みちのく会」でなじみの顔がちらほら。もちろん名前は全然出てこない。名札は目が悪くて読めない。人間に対する関心と社交性の欠如は年々その露頭がむき出しになっていく。
 妻と備え付けのお茶を飲んで,一息つかせて送り出す。その後で,使った青色模様の湯飲み茶碗を炊事場に返そうとして,手を滑らして1個割ってしまうのはいつものことである。
 要項。

 ボーゼンと時間が過ぎていって夕食の時間になる。山菜と川魚。食性がヒグマと一致しているのがお分かりであろう。人間は本当はヒグマなのかもしれない。
 食事中「一人一話」。これはここでも因習である。でも自己紹介程度。山菜を食べながらでは「みちのく」的な濃さは無理である。
 
 外は宿舎の周辺。場末のお祭りの屋台のような感じにまばらなトラップ群に明かりが入り始めていた。7〜8機はありそう。高緯度地方なので19時の空はまだ相当明るい。飲み始める人は幹事部屋でとっとと飲み始める。酔っ払う気満々らしい。
 
 20時頃からトラップ廻り。トラップ主たちは手を毒ビンだらけにして照らし出されたスクリーンを凝視している。わたしはただ眺めているだけ。
 黒くて無数にいるのは2mmほどのヨコバイ。これが主力。蛾で来ているのは,(オオ)ハガタナミシャク,(ナンダカ)アミメナミシャク,(ナンダカ)カバスジナミシャク,シロオビヒメナミシャク。ヒメバチも多い。
 昨夜よりもずっと沢山来ている,と前泊組から声が上がる。
 モンキシロシャチホコが多く飛来していて目立つ。ちょうど旬らしい。
 画像は渋い方がいい。松村松年,1921,新日本千蟲圖解,巻之四,第五十八図から。

http://www.biodiversitylibrary.org/item/107443#page/105/mode/1up
 トラップの店ごとにエゾヨツメが数頭ずつ飛来する。それほど珍しくありがたい訳ではないのだろうが,美麗種には違いないので人々は一応採集している。7月のエゾヨツメなんて珍しいだろうと思う。内地では下手をすると3月の蛾である。
 画像は同じく松村松年,1909,続日本千蟲圖解,巻之一,第六図,から

http://www.biodiversitylibrary.org/item/107801#page/183/mode/1up
 この頃の学名はまだタイプ種の Aglia tau 。属名のアグリアはギリシア神話の三美神の一人アグライアーから。ボッティチェルリの「プリマヴェーラ(春)」の絵の左側3人の女神のどれかである。
 ちなみにこの「三美神」は「輝きAglaia」・「歓喜Euphrosyne」・「開花Thaleia」の3人。せっかくだから調べてみるとこの3人は,1995年に岸田現蛾類学会長が記載したヒトリガ科 Gonerda 属3新種の種小名にそれぞれそのまま採用されていたりする。いずれもチベットやネパールのヒトリガである。恐るべし(ヒトリガ愛的な意味で)。
 
(2)に続く