vittaria をめぐる迷走。
twitterにあげた内容のまとめ直し。相変わらず学名のHPいじりである。もうほとんど実体としての蛾からは遠ざかって,記号と文献の世界に浸かりきっている。
インド産の蝶の研究者Mooreについて,おそらく標本ばかりで,自分が扱っている蝶の生態なんて見たことがないだろうと以前書いたことがあるが,人を呪わばナントカカントカを地で行く結果になっている。どうやらこれは真理らしい。
というわけで,
【和名】 コウノエダシャク
http://yyzz2.sakura.ne.jp/name/Ennominae/Elophos.html
【学名】 Elophos vittaria
(えろふぉーす うぃとたーりあ)
【命名】 (Thunberg, 1788)
である。
ツーンベリというのはリンネの直弟子で,南アフリカやインドを回って日本でも1年過ごしてヘビトンボの記載をして,鎖国下で思うように活動できないのでインドネシアに行って,最後は母校のウプサラ大に戻って教授をやった人物である。ポスト・リンネアンというよりも,分類学史的には「リンネの同時代人」と位置づけるのがふさわしい。本職は植物屋である。
というわけで,古い。古いのなら,ヒュブナーの美麗な図版があるかもしれない。いきなり,「Hübner's Geometra」で「vittaria」を探す。この時代は属名が確立していないので種小名だけで十分である。すぐに見つかる。
何か違う。こんなコウノエダシャクはおかしい。あれれと思って,「Lepindex」を引くと
Scientific Name of Taxon : vittaria
Current Status : Junior subjective synonym
Original Combination ! ! Hübner, 1808/14Current Valid Name : CHRYSOCTENIS ramosaria de Villers, 1789
http://www.nhm.ac.uk/our-science/data/lepindex/search/detail.dsml?TaxonNo=212752.0&UserID=&UserName=&&listPageURL=list%2edsml%3fsort%3dSCIENTIFIC%255fNAME%255fon%255fcard%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcardqtype%3dstarts%2bwith%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcard%3dvittaria%26recLimit%3d30&searchPageURL=index%2edsml%3fSCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcardqtype%3dstarts%2bwith%26sort%3dSCIENTIFIC%255fNAME%255fon%255fcard%26SCIENTIFIC%5fNAME%5fon%5fcard%3dvittaria%26recLimit%3d30
はずれ。ヒュブナーが命名した別の蛾である。「Chrysoctenis ramosaria」はヒメシャク亜科。この属は,現在は Cleta属に編入されている。Cleta ramosaria を画像検索すると,なるほどヒュブナーの通りである。
仕切り直し。『大図鑑』のシノニムリストへ。
コウノエダシャクは,Yezognophos sordaria で記載されている。名称が全然違うのだけど,学名のお引っ越しは珍しいことではないので平気である。
さて記載文にたどり着く。Thunberg, 1792, D.D. Dissertatio entomologia sistens insecta svecica,ウプサラ発行である。
(p. 60, 第3巻にあたる)
http://www.biodiversitylibrary.org/item/43769#page/84/mode/1up
翅は白地に埃状の散布。眼紋と帯があって,端に黒点。
ここまでをTwitterにあげてから気づいた。「記載年が違う」。まずい。vittaria の記載年は1788年で,上記の1792年ではない。ツーンベリが自分で誤同定をして,自分でシノニムを作っているに違いない。『大図鑑』はそこら辺をフォロー仕切れていないのだろうという見当。
普通はここで袋小路なのだが,幸運だった。前掲書の2ページ前(p. 58)に「Phalaena vittaria」が載っていて,1792年の本当の原記載が記されていた。これは偶然である。『大図鑑』にも「Lepindx」にもこの原記載は出ていない。
というわけでやり直し。Thunberg, 1788, Museum naturalium Academiae upsaliensis cujus partem primam 6: 74, pl. c.へ。
種名ばかりが淡々と列記されているのだが,問題の vittaria には註がついている。
Phalaena vittaria 6)
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6)埃をかぶったような翅。2つの黒い帯が波打ちながら末広がりになっている。
http://www.biodiversitylibrary.org/item/180822#page/88/mode/1up
これがHP用決定版。画像は(見つかれば)原記載に添えられたものを使うようにしている。何というか,とても地味である。蛾のプロトイメージはこんなもののような気がする。
こんなことに時間とエネルギーを取られているのだから,そりゃあ生きた蛾の撮影活動なんぞは,とうていわたしには無理なのである。
その他。現在,グーグルランク・クロール乞食の状態。