ナミシャク特集(37).ナカモンキナミシャク(とモンキキナミシャク?)

 相変わらず,Emmet『The Scientific Names of the British Lepidoptera』と遊んでいる.

  • コバネナミシャクのTrichoptryxを「thrix 毛」+「pteryx 翅」ではなく,「trikhous 3つ持っている」+「pteryx 翅」と解釈している.♂後翅の袋が3枚目の翅に見えるからだという.どうだろう.とりあえずレキシコンには「trikhous」の語は載っていないのだが.
  • 川北さんの「なんとなーく昆虫撮影」にキリバエダシャクが季節感虫でなくて無翅でなくて無視(←なかなか変換してくれない)で取り上げられていて,結構嬉しかったりするのだが,その属名がEnnomosである.「法(規範)にかなった」の意.Emmetによれば「おそらく,命名者はこの属にシャクガ科の原型があると見なしたのだろう(エダシャク亜科の名前となっている).他の属はより劣化した種類であって,規範から外れているのである」(p.180).アーキタイプかどうかはともかく,この属がエダシャクを代表するものであることは確か.


 というわけで今日のナミシャクである.まだ続くんだよ.
ナカモンキナミシャク Idiotephria evanescens
 ナカモンキナミシャク.07年05月08日.前翅長13mm.
 内地では早春の蛾だが,北海道では普通の春蛾.
ナカモンキナミシャク Idiotephria evanescens
 07年05月13日.前翅長15mm.なるほどこうやって見ると,クロオビシロナミシャクと同系列の気配がする.


 ナカモンキナミシャクの学名は Idiotephria evanescens .東アジアの蛾なので自分で調べなくてはならない.
 属名は「idios 独特の,変わっている」+「tephra 灰」.独特の色だと言いたいらしい.
 種小名は「消えた,力を失った」.


 さて問題は,モンキキナミシャクという類似種がいること.属としてはそちらの方がタイプ種である.
 講談社『蛾類大図鑑』の「ナカモンキナミシャク」の項では次のように記述される.

前種(引用者註:モンキキナミシャク)とよく似ていて,変異の傾向も似ているが,全体に淡色かやや紫がかっている.外横帯の外縁が中央で突出していることが多いが,前種ではゆるやかに湾曲している.
(pp.477-478)

 「ことが多い」では微妙な個体には使えない.分布的には,北大研究林の報告は両種を認めている.
 上の2枚の画像は「ナカモンキ」で大丈夫だろうと判断した個体である.だが,どちらとも付かない画像の方がフォルダには多い.
ナカモンキキナミシャク? Idiotephria
 08年05月03日.いい感じで擦れています.どちらかというとナカモンキ寄り.
モンキキナミシャク? Idiotephria amelia?
 08年05月01日.前翅長13mm.これは… 分からない.(つД`).
モンキキナミシャク? Idiotephria amelia?
 同じ個体.横から見ても同定にはまったく役立たない.


 これでナミシャクの第2ハードルを越えた.もう一山あるけど,まだ秘密.